シュバリア族のルーツ
BTはアクアポリスの軍港からミストヘイムに向けて出航していった。アクアポリスが次第に小さな点となっていくのをケントとムスタンは静かに眺めていた。暫くしてケントは重い口を開いた。
「あの…、ムスタン様は確か風の部族でしたよね…。失礼ですが、風の部族の事についてお話し頂けないでしょうか…?」
「うむ…。我々風の部族はグルンガルドの『シュバルヘイム』を中心に活動しておる…。」
「グルンガルドのシュバルヘイム…、初めて聞くヘイムです。」
「ああ…、シュバルヘイムは四つ葉の騎士団のあるティータヘイムから遠いヘイムだからな…。」
「はい…。それから…、シュバリア族はどうして下半身が馬で上半身が人なのでしょうか…?」
ケントはシュバリア族について尋ねた。
「!…、それを聞かれたら祖先の代まで遡らねばならぬ…。我々シュバリア族の祖先は『マプロディ族』だ…。」
「マプロディ族とは一体…?」
ケントはマプロディ族にも食いついてきた。
「マプロディ族は『神人種』と呼ばれる…、下半身が男性で上半身が女性のカムイに最も近しい種族だ…。我々シュバリア族のみならずニュートラルをはじめ多くの種族の祖先とされておる…。彼女らはこのブルドラシルが誕生した時代から存在していた…。単独で子孫を残す事も可能だが…、他の種と結ばれて新たな種族を誕生させる事もあった…。我々シュバリア族もマプロディ族と馬が結ばれて生まれたのだ…。様々な種族の誕生…、何よりニュートラルの繁殖に伴い…、マプロディ族も次第に減少していった…。減少の原因として多数派のニュートラルから…、女性の乳房と男性の陰茎を持つが故に…、『チンケイ族』の蔑称と共に迫害を受けるようになったのが大きいと言っていいだろう…。」
「そんな…、なぜ迫害されねばならないのですか…?」
ケントは迫害について疑問を抱いた。
「人と違うからだ…。人は自分と違う者を見ると少なからず違和感を覚える…。そこから偏見が生じ…、差別や迫害が起きるのだ…。我々シュバリア族もかつてはブルドラシル全域に存在していたが…、馬の下半身と人の上半身という変わった姿から…、ニュートラルから『馬人族』の蔑称並びに度重なる差別と迫害によって…、今ではシュバルヘイムにしか存在しない希少種となってしまったのだ…。皆…、自分達の種族がマプロディ族を祖先とするにもかかわらずその事を忘れておるのだ…。」
「何て酷い事を…。」
「我々が何とか絶滅を免れているのも四つ葉の騎士団が保護してくれたおかげなのだ…。ケントよ…、ぬしは我の事をどう思うのだ…?このシュバリア族の姿に違和感を感じるか…?」
「確かに…、違和感を感じます…。何より…、頼もしく感じます…。」
「違和感を感じるが何より頼もしいか…。ぬしは何故偏見を抱かぬ…?」
「僕は…、親元を離れる時…、父から…、自分達ニュートラル以外の種族とも手を携えよと言われました…。あなたに逢うまで…、僕は…、様々な種族と出逢ってきました…。皆…、心ある方々でした…。だから僕は…、あなたの今の話を聞いて…、尚更あなたと手を携えたい…。そう思いました…。」
「ケントよ…、感謝いたす…。」
ケントの真摯で心ある言葉にムスタンは感謝した。
それから1h近くして、船の往く先には霧が見えて来た。
「これよりミストヘイムに突入します!霧にご注意下さい!」
乗組員のBTの一人が船全体に呼びかけた。これより霧の先の島に向かうBT軍団。果たして囚われた要人を救出する事は出来るのか?




