オニギリとの出逢い
マミーカフェの厨房に仕事で来たケントは店長に依頼の書類を提出し、スタッフ一同に挨拶した。
「AU訓練中のケントと申します。今日は仕事でマミーカフェに参りました。宜しくお願い致します。」
朝礼を済ませた後、店長の男性はケントを仕事場である流しに案内した。
「作業は食器洗いだ。まず、使用された食器を拭き紙で下拭きし、裏返しにしてメッシュ台に載せる。そして、隣の『食器洗浄器』にかける。かけた後は下のペダルを数回踏む。ペダルを踏むと中で洗浄水が噴き出すからそれで食器を洗う。きれいになったのを確認したら台ごと濯ぎ用の水で軽く流す。濯いだ後は『食器乾燥器』にかける。食器乾燥器はかけたら自動でやってくれるから、手間がいるのは洗浄と濯ぎの二つだ。何か質問はあるか?」
「はい、何故使用された食器を紙で拭く必要があるんでしょうか?」
「水の汚れを最小限にするためだ。汚れた水はBEの発生源になりやすいからな。」
「はい。」
店長に食器洗いを教えて貰った。
開店して間もなく、使用後の食器が次々と流しに運ばれていった。ケントは紙で食器を拭いた後、台に載せていった。台が食器でいっぱいになったら食器洗浄器にかけて、蓋をした後、ペダルを数回踏んだ。蓋を開けた後、台の上はきれいになった食器でいっぱいだった。濯ぎ用の水を桶でくんで食器にかけ、仕上げに食器乾燥器にかけて、蓋をすると中で風が1M吹いていた。こうして食器洗いは完了した。
しかし、まだ仕事は終わっていない。何故なら、営業中は絶え間なく使用後の食器が流しに次々と運ばれていくのだから。ケントはそれに追われるも難なくこなしていった。
そして昼下がり、店長から1H休憩の指示が出た。女性のスタッフがまかないとしてケントに緑色の玉と麦茶を持ってきた。
「この緑色の玉は何ですか?」
「これは『オニギリ』といって、炊いた『コメ』の中に具材を入れて『ノリ』と呼ばれる海藻紙で巻いたサクラヘイムの庶民食です。」
「これがオニギリ…。」
ケントはオニギリを食べてみた。
(うっ…結構酸っぱい…、でも塩のきき具合を白いのが和らげてくれるからなぜか美味しい…)
「いかがでしたか?」
スタッフがケントにオニギリの味について尋ねてきた。
「美味しいでした。ところで、オニギリの中の酸っぱくて塩辛いのは何でしょうか?」
「ウメボシと言います。本場のウメボシはベチョベチョしているため、アクアヘイムでは種を抜いて特殊な製法で乾燥させます。サクラヘイム以外のブラーガルド全域では新鮮味を感じないベチョベチョした食べ物を好まない者が多いため彼らに配慮した製法で提供しております。フレッシュサラダ用シーズニングにナットウメパンもその例です。」
「ありがとうございました。(オニギリ…、あまりの美味しさにますますサクラヘイムが気になってくる…。)」
ケントのサクラヘイムへの関心がますます強まった。
休憩時間を過ぎ、ケントは再び食器洗いに勤しんだ。そして閉店となり、店の清掃をして仕事を終えた。
「ありがとうございました。」
「こちらこそありがとう。これを仕事の窓口に渡しなさい。」
店長はケントに依頼完了の証明書を渡した。
仕事の窓口にいる受付のウンディーネに例の書類を渡したケントは48ゲルダを受け取った。
「あ、それからアクアポリスより緊急の依頼が出ております。」
「どんな依頼でしょうか?」
「こちらです。」
ウンディーネがケントに書類を見せた。書類には、『緊急依頼、依頼内容:要人救出、要人:レスティーン20数人、報酬:20KG(手取り16KG)、備考:詳しくはアクアポリスまで。』と書かれていた。
(要人救出…、以前僕が父の元で成功させた任務だな…。)
「わかりました。喜んで引き受けます。」
緊急の依頼を引き受けたケント。しかし、仕事先で思いもよらぬ者と出会う事を彼はまだ知る由もなかった。




