海洋戦争
AU会館の書庫に案内して貰ったケントは、あちこちの本棚を見て回った。
(僕が求める情報が載ってる本は…、ここにはないみたいだな…。)
ケントが本探しを諦めていた時、司書のウンディーネが彼に声をかけた。
「何かお探しですか?」
「!…はい…。」
突然声をかけられ一瞬驚くケントだが、何とか受け答えをした。
「どんな本をお探しでしょうか?」
「『水売衆』について気になりまして、調べてみたく思った次第です。」
ケントはウンディーネに水売衆に関する書物を尋ねた。
「水売衆についてですね。それではご案内致します。」
ウンディーネはケントを水売衆に関する書物のある本棚に案内した。
「こちらになります。」
ウンディーネがケントに渡した書物は『ブラーガルドの繁栄と水売衆』という題名だった。
「ありがとうございます。」
ケントはウンディーネに一礼して近くの席で書物を読み始めた。
『ブラーガルドの繁栄と水売衆』…ブラーガルドの経済に重点を置いた歴史書。「ブラーガルドの繁栄の陰には水売衆あり。水売衆の創業の陰には雫の騎士団あり。雫の騎士団の活躍の陰には他の国境なき騎士団あり。」という言葉が綴られている。
『水売衆とは、ブラーガルドのアクアヘイムを拠点とする交易商。雫の騎士団の保護の元、各ガルドに飲み水や塩等を売り、そこから特産品を仕入れてブラーガルドに各物資を流通させてきた。交易の際、雫の騎士団に護衛をつけて貰い、収入の二割を彼らに納めていった。各物資の流通によってアクアヘイムは空前の発展を遂げていった。やがて一部の人々は海に進出し、海の上に大きな筏を浮かべて移住した。現在の「コロニーヘイム」である。』
(商人とは凄いな…。金の力でここまで発展できるとは…。)
ケントは商人の財力に驚いた。
(でも、発展したらしたで、新たな問題も起きるのでは…。)
ケントは発展にも何かしらのデメリットを抱えているのではと感じた。そして、別の本を探してみた。今度は『青の戦乱』という題名の書物だ。
『青の戦乱』…ブラーガルドで起きた本土とコロニーヘイムの争い「海洋戦争」を綴った歴史書。ブラーガルドもかつては現在のミドルガルドと同じような争いをしていた事が伺える内容だ。
『本土の期待を一身に背負った人々は十数体のウンディーネと共に洋上に移住した。しかし、洋上では言われのない様々な困難が移住者に降りかかった。何と伝染病が発生したのだ。コロニー内のセクター「アルス」を隔離用にし、医療をウンディーネに任せて本土から薬等の救援物資を待つも、伝染病の薬の開発にかなりの時間を要し、完成した頃には洋上では軍部が主である元首の妻子を人質に取りクーデターを起こして元首を傀儡。実権を握った軍部は隔離用セクター「アルス」を感染者ごと沈める暴挙に出た挙句、最早本土に任せておけぬと本土に対して宣戦布告を行い、侵攻を開始した。後に言う「海洋戦争」の始まりである。本土側の雫の騎士団は他の国境なき騎士団との外交戦術で初めは劣勢だった戦局を覆した。元首の人質の妻子が雫の騎士団に保護された後、元首は彼らにコロニーヘイムの統治権を明け渡す声明を出した。間もなく海洋軍総統が捕らえられ、戦争が終結。終結後、ブラーガルドの洋上にある「ニロ島」で、本土側とコロニー側で和平条約を結んだ。後の「ニロ条約」である。例の条約の後、海洋軍総統は戦争犯罪者としてミストヘイムの「ミストヘルバ島」に配流され、海洋軍の残党が流刑地を襲撃して元総統を救出し、その流刑地を拠点としたゲリラ組織「ブラックブルーバンディット団」を結成し、元総統を首領に据えた。彼らは本土側を「仇敵」、コロニー側を「裏切者」として、独自の支配体制を築き、自分達がいつかブラーガルドを支配する事を目論み続けた。』
(人質か…、アスティアのあれと似ているな…。更にBBB団が出来たのは戦争からか…。やはり過ちは繰り返されるものなのか…。)
ケントはブラーガルドの歴史を通じて人の業を感じた。
「ありがとうございました。」
「またご利用下さい。」
書物を読み終えたケントは司書に一礼して書庫を後にした。




