グルンガルドのためならば
AU会員としての諸手続きを終えた次の日、自室でケントは何かに気づいた。
「あっ…、ジジョッタ…、僕はまだあの宿屋の部屋の鍵を返してない!」
ケントはジジョッタに宿屋の部屋の鍵を見せた。
「これから返しに行くよ。」
「お待ちください!」
ジジョッタはケントを制止した。
「例の事件以来、犯人はまだ捕まっていないのです!そんな時にクローバーナイツの外に出るのは危険です!」
「でも、犯人の狙いはヨシーナ様だろ。僕らは関係ないし…」
「いいえ!犯人はわたくし達がヨシーナ様と一緒にいるところを目撃している筈です!道中でわたくし達がその犯人と遭遇したら、ヨシーナ様の居場所を犯人が力づくで聞き出すのは明らかです!あなたに何かあったら…、わたくし…、ヨシーナ様やあなたのお父様に顔向けできません…。」
「わかったよジジョッタ…。暫くは施設内ですべき事をするよ…。心配させてすまないね…。」
「ケント様…、聞き入れて下さってありがとうございます…。」
必死に自分の身を案じるジジョッタにケントは内心感謝しながらも軽くお詫びした。
客室を出て、ケントはジジョッタの案内で入口からすぐの伝言板に向かった。伝言板には何か書かれていた。
『メイド連れのAUへ、当分の間は依頼を受けるのはお控え下さい。その間は施設内で訓練に勤しみましょう。それでは、風の加護があらんことを。レンジャークイーンより』
(『レンジャークイーン』って…、まさか…、エルフェミス様か?)
「ケント様、『レンジャークイーン』って一体…?」
「クローバーナイツ団長エルフェミス様の事だ。君と同じように僕の事を気にかけていらっしゃったんだな。よし、いつでも依頼を受けられるように訓練しよう。」
ケントはジジョッタと共に訓練場に向かった。
一方、クローバーナイツ本部ではGRによる例の事件に関する会議が行われていた。
「我々の調査結果によれば、犯人の靴跡を辿ってみたところ、ミドルガルドまで続いていました。犯人はミドルガルドのニュートラルの男性の可能性が高いという事です。」
「まだまだ断定には至らないという事ね。エルフッド、宿屋の被害について話してちょうだい。」
エルフェミスはエルフッドに尋ねた。
「はい。被害総額は約300KGで、扉は全面買い替えにベッド三床・壁・床要修理との事です。それから、被害届も書いてあります。」
エルフッドは宿屋の主人に書いて貰った被害届をエルフェミスに提出した。エルフェミスは目を通した。
「被害者からすれば一刻も早く犯人を捕まえてほしいというけど、何かない限り犯人が出てくる可能性は限りなく低いわね。エルフッド、クローバーナイツの参謀として何か良い策はないかしら?犯人が飛びつくような何か飛びっきりの策は…」
エルフェミスはエルフッドに犯人をおびきよせる策について尋ねた。
「姉上、犯人は我々が保護している金髪の女性が狙いです。ならば、金髪の女性を囮にして…」
「却下!エルフッド、あなたは彼女の心の傷を増やすつもりなの!?」
エルフェミスはエルフッドの案に猛反対した。ヨシーナの心の傷の深さを目の当たりにしていたからだ。
「お待ちください姉上。誰も本人を囮にするとは言ってません。」
「じゃあ…、一体誰を囮にするの…?」
「姉上ですよ。金髪の女性の条件を満たしている姉上が一番適任だと思います。」
「なっ…、エルフッド…!姉のわたしを道具にするなんて…!あなたそれでも弟なの!」
エルフェミスはエルフッドの大それた発言に動揺しながらも激昂した。
「はい!だからこそ、姉上の束ねるクローバーナイツ、いえグルンガルドのためならば、僕もなりふり構っていられません!『グルンガルドのためになる事はいつかは全てのためになる』…クローバーナイツの団訓でしょう!ここに居合わせてる者達も皆理解しているはずです!」
エルフッドは真摯な態度を崩さなかった。
「犯人に然るべき沙汰を!」
「グルンガルドの平和のために!」
GR一同も賛同した。
「…わかったわ…。どうやらこれ以外に適した策はないみたいだし…。」
反対していたエルフェミスも弟達にとうとう折れた。間もなくGR一同で作戦について丸一日話し合った。
それから次の日…、ケント達にAUとしての初仕事が舞い込んできた。




