掃除
奉行所に集められた三人はヒジリから清掃について詳しい指示を仰いだ。
「さて、掃除じゃが……、ケントには雑巾がけをして貰おうかの。」
「『ゾウキンガケ』とは……?」
ケントはヒジリに指示された雑巾がけが気になった。
「桶に溜めた水で『雑巾』という古い布を濡らした後水を絞って、板葺きの床を板目に沿って拭くのじゃ。但し、畳は濡れた雑巾では拭いてはならぬ。色が落ちてしまうからの。」
ヒジリはケントに雑巾がけについて説明した。
「はい。」
ケントは承諾した。
「さて、アジューリアには、外で掃き掃除をして貰おうかの。」
「はい。」
ヒジリはアジューリアには外で掃き掃除を指示し、アジューリアは承諾した。
「さて、ムスタンには……、厩の方をして貰おうかの。」
「承知致した……。」
ヒジリはムスタンに厩の清掃を指示し、ムスタンも承諾した。
「うむ、ではその前に……、このサクラヘイムでの衣装に着替えて貰おうかの。」
「はい。」
ケントとアジューリアは快諾した。これからサクラヘイムの衣装を着るのが楽しみであった。
「あと、ムスタンには……、すまぬ……。馬人族用の衣装はないのじゃ……。」
ヒジリはムスタンにシュヴァリア族の衣装は持ち合わせがないと詫びた。
サクラヘイムにシュヴァリア族は全くと言っていい程おらず、シュヴァリア族用の衣類はそもそも製造されていないのだ。
「まず、ムスタンはすぐ様清掃に取り掛かるが良い。残りの二人は着替えを済ませ次第清掃に入るが良かろう。」
「はい。」
「承知……。」
三人はそれぞれ清掃の準備に入った。
一方、雫の騎士団立TAの寄宿舎で学徒同士の騒ぎが起きていた。
「てめえ、掃除しなかったな!!」
ロベルトの周りを複数の学徒が取り囲む中、学徒の一人がロベルトの胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「……えっ……、掃除って……。」
あまりにいきなりすぎてロベルトは理解に苦しんだ。
「講義が終わったらすぐ帰りじゃねえんだぞ!!LSでも決まってる事だろ!?あぁ!!」
学徒達はLSの頃からの日課について把握しているが、それを守らなかったロベルトに皆腹を立てていた。
「……僕……、ここ……、今日が初めてで何もわからなくて……。ごめん……。」
「今日が初めてだったら何やってもいいんか!!」
ロベルトの言い訳に等しい言葉が学徒達を逆撫でする結果になってしまった。
「てめえみてえなクズなんかブン殴ってやる!!」
胸ぐらを掴んだ学徒がロベルトの顔を殴りつけようとした瞬間、
「待ってくれ!ここは級長の僕に任せてくれないか。」
シオンが学徒達に声をかけた。
彼は元BTの一員アジューリアの弟で、ニュートラル科一年の級長だ。
また、ロベルトを取り囲んでいる学徒達もニュートラル科一年、つまりシオンとロベルトとは同級生の関係にある。
「シオン、こいつを庇うのか?こいつの為にあんたが貧乏くじ引かされる事になるかもしれないんだぜ。」
「とにかく、ここは僕に任せて欲しい。頼む……。」
シオンは同級生達に頭を下げて懇願した。
「わかったシオン、あんたに任せる。……但し、甘い裁定はすんなよ!」
同級生達は舌打ちして去って行った。
「……シオン君……、有難う。」
ロベルトは自分を庇ってくれたシオンに礼を述べた。
「ロベルトだったな。悪いが君に感謝されるいわれはない。……一つ話がある。」
シオンは神妙な顔つきでロベルトに話を持ちかけた。
「今日の講義が終わった時、君は先生の話をきちんと聞いてたのか?」
シオンはロベルトに問いただした。
「うん……。」
「だったら何故すぐ帰った?」
「……『講義は終わりです』って……。」
「あの話にはまだ続きがあったんだ!……『皆で掃除してから解散』と先生は続けてはっきり述べたんだよ!なのに君だけが先生の話の続きを聞かずにすぐ帰った。皆が君に腹を立てるのは当然だ!」
シオンはロベルトに自分の過失の重大さを伝えた。
「ロベルト、明日は朝一番に担任に謝っとくんだぞ。いいな。」
シオンはロベルトに明日すぐに担任の先生に謝るよう伝えた。
「うん……。」
ロベルトは頷き、シオンも去った。
ロベルトの受難もまだまだ続くのだった。
話を戻して、三人は清掃を済ませた。
「皆結構見どころあるのう。では、今日は明日に備えてゆるりと休むが良い。」
「はい。」
「うむ……。」
ヒジリは三人に休むよう伝え、三人は頷いた。
明日は一体どんな訓練が科されるのだろうか?




