訓練準備
一夜明け、志の騎士団は小会議室に集合した。雫の騎士団団長マキュリーナによる訓練に関する書類配布の後、ジジョッタはシーナとユリアを伴いシエルヘイム、アジューリアはコンラッドとロベルトを伴いティーンアカデミー、ケントとムスタンはソールと兵士達を伴いBT宿舎にそれぞれ向かった。
「おおっ!二人ともご無事でしたか!…して…、そちらの連れは?」
BT宿舎でケントとムスタンを出迎えたBTの隊員達は三年ぶりの再会に喜んだ。
「これから一年間皆さんの元で訓練する者達です。」
「僕は志の騎士団の一員で、フレッシュティーンのソールです。剣闘士を目指して訓練頑張ります。」
「それがし共は志の騎士団の一介の兵士です。宜しくお願い致します。」
「…皆を宜しく頼む…。」
ケントとムスタンはソール達を紹介し、ソール達は自己紹介をした。自己紹介を済ませた後、ケントは書類を宿舎にいる上官に渡し、ムスタンと共に宿舎を後にした。
アジューリアはティーンアカデミーの理事長に訓練の書類を渡した後、学徒用宿舎にロベルト、教員用宿舎にコンラッドを案内した。
(あっ…、そうそう…。一つやり残した事があったわ…。)
ティーンアカデミーでの用を終えてアクアポリスに帰還しようとしたアジューリアは何かを思いついた。
学徒用宿舎の一室に一人のフレッシュティーンの男性がベッドに寝そべって天井を眺めていた。
(僕も今年でティーンアカデミーのニュートラル科に入校したんだけど自分がやりたい事がまだわからないや…。それに比べて姉さんは騎士になりたい一心で『士官科』で訓練を積んでBTに入隊していった…。なのにどうして辞めたんだろう…。雫の騎士団なら金に困らないのに…。!…誰だろう…?ドアをノックするのは…?)
男性はドアに向かった。
「誰ですか?」
「シオン、わたしよ。」
(まさか…、姉さんか…!?)
男性は聞き覚えのある声にはっとした。男性がドアを開けるとアジューリアが入ってきた。
「シオン、久しぶりね。ティーンアカデミーの生活はどうかしら?」
「ね…、姉さん…、どうしてここに…?」
シオンは突然部屋に入って来た姉アジューリアに戸惑い気味だった。姉の身体が以前より大きくなっている事も動揺に拍車をかけた。
「わたし、あなたに大事な事を伝えに来たの。」
「大事な事って一体…?」
「シオン、確かあなたはニュートラル科だったわよね。そこにもう一人のあなたと同い年の人が編入してくるの。」
「編入?」
「ロベルトという人よ。彼は人から指示された通りにするのが苦手な人なの。だから、失敗してしまう事が多いの。もし彼が失敗しても責めないであげて。彼のアカデミー生活をあなたが支えるの。例え周囲から孤立する事になってもあなただけは彼の味方になってあげてね。」
アジューリアは弟シオンにロベルトの事を伝えた。
「うん、姉さん。任せといて…!…あっ…、その前に聞くべき事があった…。姉さんはそのロベルトとどういう関係なの?」
シオンは了解しそうになるも、姉とロベルトの関係について気になった。
「ロベルトはわたし達『志の騎士団』がレスティーン労働から保護していたの。雫の騎士団団長の計らいでこのアカデミーに編入する事になったの。」
アジューリアはロベルトの事を伝えた。
「ロベルトの事はわかったけど…、姉さんはどうしてBTを辞めたの?」
事情を聞いたシオンはロベルトの事は了承したが、姉が何故BTを除隊したのかが気になった。
「わたしね、やるべき事があるの。あのままBTにいては出来ない事がね。」
「そのやるべき事って何?」
シオンは姉のやるべき事が何か気になった。
「ごめんなさい…、それは話せないの…。とにかく今は…、アカデミーで学問に勤しみなさい。では…、あなたに水の加護を。」
「…わかったよ…。じゃ、姉さんにも水の加護を…。」
アジューリアはシオンの部屋を後にした。このやり取りがシオンとロベルトの今後を左右する事となるのだった。
士官科…ティーンアカデミーの科の一つ。軍事・治安・警備職に必須の戦闘訓練と法学に重点を置いている。卒業後に騎士や軍人として国境なき騎士団やミドルガルドの各国家に仕官する者が多い。
団員達を各訓練先に送って小会議室に戻ってきたケントとアジューリアとムスタンを待っていたのはマキュリーナとエルフェミスだった。
「引率ご苦労様。それでは、あなた達に特別な訓練を科します。」
果たしてマキュリーナはケント達にどのような訓練を科すのだろうか?




