抜き打ち試練
いよいよ第二部が始まりました。
四つ葉の騎士団団長エルフェミスを伴う志の騎士団は無事にブラーガルドのアクアヘイムの雫の騎士団本拠アクアポリスに到着した。エルフェミス以外の一行は人数の多さから小会議室に案内され、暫くして雫の騎士団団長マキュリーナがエルフェミスと共に小会議室に入ってきた。
「ふふっ……、結構な大所帯じゃない……。ケントもアジューリアもAUに恥じない成長ね。」
マキュリーナは志の騎士団の人数の多さ並びにケントとアジューリアの大柄な体躯にAUとしての成長を感じた。
「初めまして、わたしは雫の騎士団団長マキュリーナと申します。では、志の騎士団について個別訓練の内容を伝えたいと思います。……ロベルト、いる?」
マキュリーナは初対面の者もいる事を考慮して自己紹介をし、続けて個別訓練の内容を伝える前に唐突にロベルトを指名した。
「!……はい……。」
ロベルトは戸惑いながらも返事した。
「お遣いよ。ここの購買部でデクードの実を買って来て。お釣りはわたしに返しなさい。」
マキュリーナはロベルトに小遣いを渡し、デクードの実を買ってくるよう命じた。
「はい。」
ロベルトは小会議室を後にした。それから数m後、ロベルトが木の板を持って戻って来た。
「買って来ました。」
ロベルトは木の板と釣銭をマキュリーナに渡そうとしたが、マキュリーナは黙って釣銭だけを受け取った。
「……ロベルト……、あなた……、わたしの話を聞いてたの!?」
マキュリーナはロベルトを睨みつけながら問いただした。
「はい……。『デクード買って来て』って……。」
「わたしははっきりと『デクードの実を買って来て』ってあなたに言ったの!それにあなたは『はい』と答えた。なのに買って来たのがデクードの板ってどういう事なの!?」
「『デクード』と言えば木材だから板が浮かんできたんです……。」
「ロベルト、エルフェミスの話によればあなたはケント達と共に四つ葉の騎士団に向かう途中で『皆の傍を離れないように』との言いつけを守らずはぐれてしまったそうね。だからあなたを試したの。AUとしての基本中の基本が出来るかどうかをね。単刀直入に言うわよ。今のでつまづくようでは皆の足手まといなの。AUの仕事は指示を正確に守らないといけないの。複数ある指示を一つだけ忘れていたが為に連携が取れないばかりか最悪パーティーが全滅する事だってある。指示された通りにするのと、指示された通りにしようとするのは全く別なの。」
「……。(……ちょっと間違えたくらいで何もそこまで言わなくたっていいじゃないか……。)」
マキュリーナはロベルトにAUとして大切な事を伝えた。ロベルトは不服な感じだ。
「ロベルト、団長のケントに悪いけど、あなたには志の騎士団を抜けて貰うわ。あなたにAUの道はまだ早すぎる。うちの直営のティーンアカデミーの『ニュートラル科』に編入して学問に勤しみなさい。それからでも遅くはない筈よ。」
マキュリーナはロベルトに志の騎士団の一員から解任を言い渡し、ティーンアカデミーへの編入を命じた。いわゆる辞令だ。
「……はい……。(……また学校か……。……やっと自由になれたと思ったのに……。)」
学問が苦手なロベルトは干されたような気分になった。ケントをはじめ志の騎士団一行もマキュリーナのロベルトに対する沙汰に複雑な感情を抱いた一方、エルフェミスは動じなかった。彼女は国境なき騎士団の団長の一人だけあってAUに関する様々な事を人一倍理解しているからだ。
「マキュリーナ様、一つお尋ねしたい事があります。」
ケントがマキュリーナに申し出た。
「ケント、ロベルトへの処遇に異論かしら?」
「いえ、学問が人の新たな可能性をもたらすのは承知しております。ただ……、彼の相棒のホタッテルはどうなるんでしょうか?」
ケントはロベルトの相棒ホタッテルがどうなるのか尋ねた。
「そこの蛍型のカムイね。一旦わたしの相棒の元に預けるわ。ロベルトがティーンアカデミーを卒業するまでね。」
マキュリーナはロベルトがティーンアカデミーを卒業するまでは自分の相棒のグウレイアの元に預けると答えた。
「はい……。(良かった……。)」
ケントは安堵した。
「ロベルト兄ちゃん、お勉強頑張ってね。僕、またあのお姉さんに逢えるなんて嬉しいな~♪」
ホタッテルはクライアントのロベルトを励ましつつも、以前面識のあったグウレイアに再び逢える事を飛び回って喜んだ。
「それでは、他の団員についてお伝えします。」
マキュリーナは気を取り直して訓練に関する人選の発表に入った。果たしてそれぞれどんな配置になるのか?訓練を満了したケントとアジューリアとムスタンはどうなるのか?
ニュートラル科……ティーンアカデミーの学科の一つで、アースガルドにおける高等学校の普通科にあたる学科。学問に勤しみながらオーバーティーンカレッジに進学するか就職するかを決めていく。ティーンになってもまだ自分のやりたい事がわからない者が選ぶ事が多い。
ひだまり童話館6周年参加作品『にじのたすき』も同時掲載です。
こちらもご愛顧頂けたら嬉しい限りです。




