初めて人を殺めた日
先の任務で初めて人を殺めて極めて複雑な感情で一杯のケントはエルフッドに話を持ちかけた。
「僕…、初めて人を殺めて…、いつか自分もああなるかもしれないと思いました…。殺さずに済ませられなかったのかな…、と今なら思います…。」
「君が討ったグッダの事は気に病む必要はないよ。彼は…、脱獄の際に看守を殺害したんだ…。彼に業を全うする意思が無いと我々は判断し、捕らえたら『射殺刑』にする予定だった…。」
エルフッドはグッダはいずれ手を下される運命だったと述べた。
「射殺刑とは一体…?」
ケントは射殺刑について喰いついた。
「このグルンガルドの最高刑だ。罪人を柱に両手両足を縛り付け、目隠しをして、その罪人に向けて一斉に毒矢を放つ刑だ。出来れば僕らもこんな手段に訴えたくはなかった。君が討たなかったら僕らが手を下していたからね。自分でも…、有難うと言うべきなのだろうか複雑だな…。誰かの為に手を穢すのは自分だけで良いと思っているんだけど、いざという局面で躊躇してしまうんだよな…。」
「僕もその考えは同じです。誰かの為ならば手を穢す覚悟はあると言いつつ、その局面となるとついつい…。」
「いや…、君は団長なんだ。君が迷えば最悪全滅する事だってある。でも…、戦いの場でないなら一人の人間としていくらでも迷っていいんだ。迷いは恥と世間では言われているが、実は心ある者の証でもあるのだから。」
「はい…。それから…、人を討って周りの皆から祝われた時…、『人を討って英雄扱いを受ける』…、こんな時代は間違っているのかな…と思いました。」
ケントは先の戦いでグッダを討った後、GRや団員達からその事を祝われた事に疑問を抱いていた。
「確かに僕も間違っているなと思うよ。こんな時代にならないようにしていくのが我々国境なき騎士団の務めだしね。」
「有難うございます…。エルフッド様、お休みなさい…。」
ケントは席を立ち、一礼して部屋を出ようとした。
「こちらこそ有難う…。ああ、それから…、わかってると思うけど、君は一人じゃない。多くの支え手に恵まれている。これから先、迷う事があったなら彼らを頼りなさい。心ある者は心ある者の力になる事を望むものなんだ。その事を忘れずにね。」
「わかりました…。失礼致します…。」
「お休みなさい。」
ケントは一礼した後、静かに扉を閉めてエルフッドの部屋を後にした。
一夜明け、ケントAU団はAU会館で緊急依頼である『要人救出』並びに『要人討伐』の報酬を受け取った。前者は8,000ゲルダ、後者は40,000ゲルダで計48,000ゲルダだった。ロビーの伝言板にはケントAU団に本部に来るよう書かれていた。
本部の応接室でエルフェミスはケントAU団一行に話を持ちかけた。
「先日は有難う。まだ四つ葉の紋章を貰っていない人がいるわね。」
「はい。ユリア、ソール、ロベルトの三人です。」
「僕もね。」
ケントが答えた後、ホタッテルが自分もと付け加えた。
「ふふっ…、三人と一体で合わせて四つ必要ね。それから、皆に会わせたい人達がいるの。ついてきて。」
エルフェミスは一行を大樹の祠に案内した。いよいよケントと主の再会が刻々と迫ってきた…。




