フレンの生い立ち
流星騎士団本部の会議室では、先日ステラ達が賊共の襲撃に遭った件を受けて会議が行われた。
「先日、私は連れのシュバリア族のAUと共に農村から農作物を仕入れて交易に向かう途中で賊共の襲撃に遭いました。何とか撃退し、一人を拘束しました。彼を尋問したところ、『モーカリズム』の差し金という事です。」
ステラは先日の賊共からの襲撃並びに結果を報告した。
「モーカリズムだって!?」
「まさか……、あの金の亡者集団か!?」
「奴ら……、農村の旬の農作物等を不当に安い額で買い叩いては闇市で高く売り飛ばすと聞いた事があるぞ!」
「それから……、ただで貸す代わりに『8%』金利……、すなわち無限金利で文無しにするまで返すよう催促するというじゃないか!」
「それだけじゃない……。一度手にしたら手放せなくなる『快楽の薬』を身寄りのないレスティーン達に栽培させ、初めは客にただで薬を渡して、後から値段を上げてしまいには文無しにするって聞いたぞ!」
団員達はサンドガルドのブラック組織『モーカリズム』の台頭に対して動揺した。
「ご静粛になさいまし!……以前の作戦『OT』でUD商会に多少の痛手を負わせたかと思いきや、今度はモーカリズムが台頭してきた……。明らかに捨て置けない事態ですわね……。もし、モーカリズムがUD商会に金を融資したとなれば……、折角のOTが無駄になってしまいますわ……。どうやら今回もTC団の協力が必要になってきますわね……。」
ヴィーナはモーカリズムの台頭を危惧し、今度もTC団の協力が必要と述べた。
「御意……。」
ステラはヴィーナの考えに今度は理解を示した。以前、OTでレスティーン達を保護した際、暑さと渇きに苦しんでいた彼らに水を分けてくれた件からだ。
・快楽の薬……サンドガルドで栽培されるさる植物から精製される薬。快楽を得られるが、暫くすると禁断症状が出て薬が欲しくなるのはBEによるものだ。また、『死を恐れぬ薬』として徴兵したばかりの兵士向けにミドルガルドに出回る事も少なくない。しまいには体内のBEが蓄積された末、理性を失ったり、単発の言葉しか話せなくなったり等の後遺症が残ってしまう。その為、国境なき騎士団では禁止薬物として扱われ、摘発対象となっている。
グルンガルドのさる上空、TC団の飛行艇の甲板の上でフレンはデクード刀で一人剣術の訓練をしていた。
(……剣の道は孤独と言うが……、ま、俺のダチは剣でも構わねえな……。俺はやはり盗賊の端くれだ……。その証拠に四つ葉の金髪ポニテ姐ちゃんから煙たがられてるしな……。この飛行艇をあの姐ちゃん共が造ったせいで俺はともかくダチ共の居場所が奪われちまう……、そう、ダチ共にだけは俺が味わったあんな惨めな想いはさせたくねえ一心であんな暴挙に出ちまった……。ダチを護る為だ……。後悔はしてねえよ……。そう言えば俺が盗賊稼業に奔ったのはいつからだろうか……。ガキの頃おふくろは妹産み落とし、資産家の親父が宴の場で毒を盛られて死んだ挙句、悪徳経理に乗っ取られた末に妹と一緒に路頭に放り出されちまった……。妹は親父の後を追うように病にかかった挙げ句、貧者ってだけで医者に診て貰えなかった……。妹の最期の言葉、『お兄ちゃん……、あたし……、お金……、大嫌い……。』が堪えちまったよ……。だから俺は金が憎い……。憎さのあまりぬくぬくと生きてやがる富裕層の奴らが気に入らねえあまり、貧者共に分け与えてやりてえ一心で盗みを働いて捕まった上にその場でブッ殺されそうになったところを後のダチとなるムサシに助けて貰ったんだよな……。そして俺は強くなりてえ一心でムサシに存分に剣術を教えて貰った……。俺はその剣術で盗賊稼業に奔るが、標的に弱者や心ある奴は選ばねえし、私利私欲目的の略奪はしねえ……。そんな俺のココロザシに共感したダチ共が増えてって今の義賊団『トリッククローバー団』があんだな……。)
フレンは自分の所業と過去を振り返った。暫くして……
「マスター、星光の令嬢がお呼びです。」
ムサシがフレンの元にやって来て、ヴィーナが呼んでいる事を伝えた。
「今度は何の依頼だ?」
「今度の標的はモーカリズムとの事です。」
「わかった。今すぐ来ると伝えな。(……死の商人の次は金の亡者か……。奴等を叩けば死の商人共が息を吹き返すのを封じる事も出来るな……。)」
「承知しました。」
ムサシは承諾して操舵室に戻り、舵を流星騎士団本部に取って飛行艇を進めた。
(さあて……、また面白くなって来やがったぜ!)
フレンは満面の笑みを浮かべた。




