皆で生き延びよう
いよいよソール級長の発表する番がきた。
「僕はスラムで生まれました。母は僕を産み落として亡くなり、父と暮らしていました。家は貧しいでしたが、近くにレスティーン達がたくさんいた為、友に恵まれていました。しかし、父が病に倒れ、僕は孤児となりました。孤児として路上生活中、ある人から『生活の場を提供しよう』と声をかけられてUD商会に連れられ、そこで多くのレスティーン達と共に働かされる日々を送りました。UD商会での労働は極めて過酷で、いつ誰が死んでもおかしくない状態でした。そんな過酷さの中で僕は『皆で生き延びよう』と考えるようになりました。そして、アジューリア先生達に保護されてこの学校に通って今に至ります。終わります。」
ソールは自分の生い立ちを語った。皆拍手した。
「有難う。皆、聞いたか。彼は逆境の中でも『皆で生き延びよう』という気持ちから皆を思いやる事を忘れずに生きてきたんだ。だが、昨日彼の気持ちと相反する事件が起きた。ロベルトの事だ。彼は私の話の『講義は終わりです』に反応するあまり、その後『皆で清掃をしてから解散』という話を聞かずにすぐ帰ってしまった。それは彼の非だ。しかし、級長はそんな彼を責めるどころか、彼が抜けた穴を埋めようと必死で掃除したんだ。級長は以前より何かと失敗の絶えないロベルトの事も気にかけていた。だが、お前達は失敗を犯した彼を一方的に責めた挙句、大怪我を負わせた!明らかに非はお前達の方だ!級長の意思に反しているからな!」
ケントはソールの『皆で生き延びよう』の気持ちや昨日の事件に対する彼の対応等を語った。
「!!……。」
ケントの厳しい言葉に学徒達の背筋が凍りついた。
「良いか、自分達の心のどこかに『皆で生き延びよう』という気持ちがあるならば、ソール級長……、そしてロベルトに詫びなさい!」
ケントは学徒達に自分の中に善意があるならソールやロベルトに詫びるよう伝えた。
「……ソール級長……、ごめんなさい……。」
学徒達はソールに頭を下げて詫びた。中には涙を流す者もいた。ソールは黙って頷いた。それから間もなく講義の終わりを告げる鐘が鳴った。
「では、席に戻って下さい。」
ケントは学徒全員に席に戻るよう伝え、学徒達は着席した。
「それでは、本日の講義は終わりですが、皆で清掃してから解散とします。」
ケントの合図で学徒全員は教室と廊下を清掃してから宿舎に戻って行った。そして、翌日にはロベルトも教室に戻ってきた。
それから三か月後、志の学級にまた新たな問題が降りかかった。




