見えざる影
宿屋に入った一行は、受付でチェックインの手続きに向かった。
「こんばんは、お泊りでしょうか?」
「はい。」
「一人一泊素泊まりで24ゲルダになります。」
「三人一泊でお願い致します。」
「わかりました。宿泊費として72ゲルダになります。」
一行は宿泊費を係員に支払った。
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、防犯のため武器はお預かり致します。」
ケントは帯剣している剣を係員に預けた。
「他に武器はありませんか?」
「この剣だけです。」
「わかりました。」
係員は預かった剣をバックヤードに持って行き、暫くして戻ってきた。
「客室にご案内致します。」
係員は前にある階段を上って二階の客室に一行を案内した。
「この部屋の鍵をお渡し致します。チェックアウトの際は受付にお返し下さい。」
「はい。」
係員は部屋の鍵をケントに渡した。
「それでは皆様、ごゆっくりお寛ぎ下さい。」
案内を終えた係員は受付に戻って行った。板葺きの客室は古めかしさこそあるものの、どこか温かみのある雰囲気だった。ベッドも三床用意されているだけでなく、一階には酒場も併設されており、最低限の生活は可能だ。
「ヨシーナ様、ケント様。まずは、四つ葉の騎士団への情報収集が重要だと思います。」
「それは僕も同じだよ。でも、どうやって情報収集するんだろう?」
「下にある酒場のマスターに聞いてみるのが一番だと思います。中にはチップが必要な場合もありますが…。」
「わかった、僕が行ってくる。ジジョッタ、君はヨシーナ様と一緒にいてくれ。ヨシーナ様を一人にするわけにはいかないからね。」
「ケント様、わかりました。ヨシーナ様はわたくしがお守り致します。」
ケントは客室を出る際、扉に鍵をかけて下の酒場に向かった。次の瞬間、一行の客室の近くから怪しい影が忍び寄ってきた。
下の酒場に入ったケントはマスターのいるカウンターに座った。
「こんばんは、マスター。唐突で失礼ですが、一つお尋ねしたい事があります。」
「わしに何を聞きたい?」
「四つ葉の騎士団への行き方についてです。」
「四つ葉の騎士団!?…ああ…、クローバーナイツか…確かこのグルンガルドの奥地『ティータヘイム』の空の果てまで伸びる大樹を目指すといいだろう。ただ…」
「ただ…?」
「クローバーナイツはそう簡単に行ける場所ではない。カムイとの関係も重要になってくる。まあ、日頃から人に親切にしてる奴なら…」
次の瞬間…
「大変だ!二階の客室が荒らされてる!!」
他の宿泊客が宿屋で大変な事が起きた事を大声で周囲に知らせた。
(二階の客室…!?まさか…、僕らの部屋か…!?)
二階の客室と聞いてケントは自分達の部屋かもしれないと動揺した。
「マスター、ありがとうございました。」
ケントはマスターにお礼をした後、自分達の客室に急行した。
ケントの悪い予感は皮肉にも的中し、自分達のいた客室のドアが何者かに蹴り破られていた。中に入ってみると、全てのベッドがひっくり返されていて、窓も開いたままで、物色された跡もあり、中にいるはずの二人がいなかった。
(な…、何故だ…、何故こんな事になったのだ…!?まさか…、ヨシーナ様とジジョッタは…、連れ去られてしまったのか…!?)
変わり果てた自分達の客室にケントは唖然呆然とした。
一方、宿屋の入口では緑装束の連中が駆けつけてきた。
「GRだ。この宿屋での騒ぎを聞きつけて参った。」
GRは皆、羽の付いた帽子に、風のシンボルである四つ葉の刺繍が施されている制服を着用していた。
『グリーンレンジャー』…クローバーナイツに属する治安部隊で、グルンガルド内の各ヘイムをパトロールしている組織である。略称は「GR」。




