グルンガルドへ
夕陽が沈みきった頃にはケンウッドの涙は枯れていた。
(何故だろう…、あんなに泣いたのは何年ぶりだろうか…、おかげで気持ちも晴れやかだ…。)
そして一行は真っ暗な森の中に入って行った。ジジョッタはランプを点けて前を照らしながら歩いていく。暫くしてジジョッタは口を開いた。
「ケンウッド様…、何故…、人は泣くのでしょうか…?」
「!…わからない…。気が付けば涙が溢れていた…、そんな気がするんだ…。個人的には…、身近な者を失う悲しみ…、理不尽な事を突き付けられる悔しさ…、かけがえのない者と出逢える喜び…、そのどれかだと思う。」
ジジョッタの突然の問いにケンウッドは戸惑いつつも何とか答えた。
「ケンウッド様…、あなたはどんな涙を流したいですか…?」
「僕は…、涙は流したくない…、いや…、流すなら…、やはり喜びの涙を流したい。…そもそも何故涙について聞くんだい?」
ケンウッドはジジョッタに聞き返した。
「わたくし…、人の心について…、もっと知りたいのです…。そして、ヨシーナ様やあなたのお役に立ちたいのです。」
「そうか、わかったよ。それから、僕はもう『ケンウッド』じゃない。これからは『ケント』と呼んでくれ。」
「わかりました、ケント様。」
ケンウッドは自分の第二の名前『ケント』に改名した。
暫く進んでいくと、灯りが見えてきた。
「あっ、灯りが見えます。」
灯りを確認したジジョッタは一行に伝えた。
「良かった。では、ヨシーナ様も行ってみましょう。」
「はい…。」
更に進んでいくと大きな一軒の建物が見えてきた。有難い事に宿屋だった。
「ヨシーナ様、ジジョッタ。今日はこちらで一泊しましょう。」
「はい…。」
「はい。(…誰かに見られているような気がするけど…)」
一行は、宿屋に入っていった。一行の後ろで怪しい影が目を光らせていた。これから宿屋で何らかの事件が起きる事をケントはまだ知らずにいた。




