ステラとエクレール
流星騎士団本部の会議室ではUD商会に対する会議が行われた。
「先日、諜報に携わった者の話によれば、UD商会が八本足の大型兵器を製造し、格納庫の近くでテスト運用並びにデータ採取していたとの事です。あの兵器がミドルガルドのどこかの国の手に渡ったら大変な事になります。…と言ってもここはミドルガルドではないからミドルガルドの人々の事よりも、サンドガルドとロードガルドに幅をきかせるUD商会が戦争を利用して富を築く事の方が問題になりますわ。…つまり、例の大型兵器を何とかすると同時にUD商会の財源に痛手を負わせる必要があるという事ですわね。それにはまず…、『TC団』の協力が必要ですわ。」
ヴィーナはUD商会の情報収集の成果を伝えると同時に、UD商会への工作作戦を立案し、作戦にはTC団との協力が必要と述べた。
「団長…、TC団と言えばグルンガルドの空を制している事で、四つ葉の騎士団から煙たがられている盗賊団ですよね。国境なき騎士団が盗賊団の手を借りるのはいかがなものかと存じますが…。」
ステラはヴィーナの案に難色を示した。
「ステラ、確かに彼らは盗賊団ですわ。しかし、彼らはわたくし達流星騎士団に『こいつをレプラコーンの泉に沈めてくれ』と金を持って来て下さるいわゆる義賊の側面も持ち合わせていらっしゃいますわ。それに、彼らは金を憎む方々…。UD商会が戦争を利用して金儲けする様を捨て置く事は出来ない筈ですわ。」
ヴィーナはTC団の事を信頼に値する者達とステラに説いた。
「わかりました…。団長の意思を尊重致します…。(今一つ納得出来ない…。義賊とはいえそもそも盗賊団の手を借りるのが…。)」
ステラは表向きには引き下がったが、内心不服だった。そんなステラの隣の肩近くまで髪が伸びた女性騎士が相棒の彼女に声をかけた。
「ステラ…、団長の仰る事もご尤もだけど…、あなたが盗賊を快く思わないのもわかるわ…。」
「エクレール、あなたはTC団の肩を持つつもり?」
「いえ、わたしは利用出来るものは利用する考えよ。ただ、足元をすくわれないようにした上でね。そう、相手が腹黒い者なら相手の道具になりそうな何かを避けるの。ところで、『将軍王』の事知っているかしら?」
エクレールは盗賊の力を借りるのは何かしらの警戒が必要と伝えると同時に将軍王の事を尋ねた。
「うん、確かミドルガルドのアスティア王国の先王の異名だよね。それが何か?」
「現在のミドルガルドの戦乱の原因がその異名という噂よ。」
「えっ…!?」
「その先王が崩御して間もなく、アスティア宰相から王となった現アスティア王スパイデルは『将軍王の娘婿』を自称して他国を蹂躙していった。これが何を意味しているかわかるかしら?」
「…『将軍王』の異名が家臣の野心の道具となった…、という事?」
「ええ。つまり、現王は『将軍王』の箔を目当てに先王の娘と結婚して『将軍王の娘婿』となった。そう、スパイデルは家臣の頃から『将軍王』が世界の頂に立つ事を至上と考えていた事になる。」
「じゃあ、仮に先王が何も異名を持ってなかったらスパイデルは野心を起こさなかったという事か?」
「そうでもないわ。野心を抱く者は常に自分の野心の道具になり得る何かを探しているものなの。その何かが主の異名だった『将軍王』…、という事よ。」
「何故『将軍王』の異名が野心の道具になるんだ?」
ステラは将軍王の異名が野心の道具になる事に疑問を抱いた。
「いかにも名声に満ち溢れた異名だからよ。名声のある者が世界の頂に立つ…。それを望む者は少なからずいるわ。例え本人が望まなくてもね。」
「なる程…、『名声を持つ事と世界の頂に立つ事は別』と考えるか、『名声を活かすべく世界の頂に立つべきだ』と考えるかの違いという事か…。先王が前者で、スパイデルが後者の考えなんだな…。」
「ええ、先王が仮に後者だとしたらどうなるかわかるかしら?」
「いや…。」
「崩御する事もなく、世間から『黒き将軍王』等と蔑まれ、将軍王の異名が地に堕ちるわね。」
「じゃあ、先王の崩御の原因は『将軍王』と呼ばれる程の名声を持ちながら世界の頂に立とうとしなかったからスパイデルによって暗殺された…という事か?」
「そういう感じね…。スパイデルからすれば主が後者なら都合が良かったけど、前者だったから狡猾な手段に訴えた末に弑逆に至ったという事になるわね。」
「よく考えてみれば、戦乱の原因は将軍王の異名ではなく、それを野心の道具にするスパイデルであるのは明らかだと私は思うが。」
「わたしもそう思ったわ。やはり戦乱はいつの時代も野心を抱く者によって引き起こされるものね。」
「エクレール、色々教えてくれて有難う。」
ステラはエクレールに教えて貰って感謝した。
「…では、例の作戦に携わる人選についてお伝えします。ステラ、エクレールの両名です。それ以外は解散!」
ヴィーナはステラ、エクレール以外を解散させた。
「ステラ、エクレール。あなた達はわたくしと共にいらっしゃい。」
「はっ。」
「はい。」
ヴィーナは二人を本部の地下のさる場所に連れて行った。
AU会館の依頼の窓口でケントとアジューリアは仕事について受付のヴァルキリーに話しかけた。
「今日も施設内で重い物を扱う仕事はないでしょうか?」
ケントはヴァルキリーに重い物を扱う仕事がないか尋ねた。
「今日は廃棄物の運搬ですが、異臭は大丈夫ですか?」
「はい。」
「はい。(以前は駄目だったけど今なら…)」
二人とも承諾した。初めは臭い物が苦手だったアジューリアも今では克服済みだ。
「二人ですね。書類を依頼主にお渡し下さい。」
ヴァルキリーはケントに依頼の書類を渡した。二人は現場に向かった。果たして、二人は仕事をこなせるのか?




