戦争とUD商会
流星騎士団本部の会議室に役人達を召集したヴィーナはUD商会とミドルガルドの近況について語った。
「皆様もご存じの通り、UD商会の活動が数年前から活発化しています。その原因がミドルガルドのアスティア王国です。アスティア王国は先王の代まで平和な王国でした。しかし、現王が政権を掌握した途端に他国を手当たり次第に侵略し始め、中には建国当初から同盟関係だった国もあったとの事で、現在はターコイズ街道とアメシスト街道に覇を唱えております。真実かどうかはわかりませんが、UD商会がそのアスティア王国に取り入る形で契約したという噂も出る程です。戦争が起こる…、UD商会が戦地に兵器を売り飛ばして戦争の規模が増幅される…、更に兵器の需要が高まりUD商会がまた兵器を売り飛ばして更なる利益を…。わたくし達流星騎士団はこのような悪循環を断ち切らねばなりません。例え戦争を無くすに至らずとも、せめて規模を最小限に食い止めねばなりません。…ステラ、先日の件についてお話しなさい。」
ヴィーナはステラに先日の事件について話すよう促した。
「先日、サンドガルドのさる街でさるAU団一行の一人からUD商会の二人から団員の少女を人質に取られて強引な商談を持ちかけられたという通報がありました。商談の内容は、二人の団員の精悍な身体を自分達の技術で更なる強化並びに、右腕を欠損した団員の義手を兵器に改造するという事でした。一行が商談を拒否したと同時に私達が駆け付けたお陰で何とか事なきを得ました。私からは以上です。」
ステラはUD商会のケントAU団に持ちかけた強引な商談について話した。
「ステラ、有難う。一団の少女の話によればUD商会の大柄な男性の脚は鉄らしき物で出来ていたという話です。恐らくUD商会は精悍な身体のAUを兵器に改造してミドルガルドに売り飛ばす腹なのでしょう。しかし、そんな事は断じてさせません!かの悲劇を繰り返させる訳には参りません!…と言ってもまだまだ情報不足ですわ…。」
ヴィーナはUD商会による悲劇の繰り返しはさせないと息巻くも情報が足りずお手上げ状態だった。
「だからこそ…、情報収集が必要ですわね…。では…、その人選について…」
ヴィーナは気を取り直して情報収集を誰かに命じた。
一方、トラスティア王国を滅ぼし、ミドルガルドの旧トラスティア王城に入ったアスティア王スパイデルはベムに自分の命令を遂行したか尋ねていた。
「何!?ロイ王を生け捕りにしなかっただと!?」
スパイデル王はベムにトラスティア王ロイを捕らえなかった事について問いただした。
「…ああ…、奴は…、自らの首を掻き切って死んだ…。まるで先の何かを読んでいたかのように…。」
ベムはスパイデル王にロイ王の最期について伝えた。
「何故奴の自害を止めなかった!貴様が止めていたならば…、貴様が止めていたならばぁぁぁぁ!!」
スパイデル王は自制心を失ったあまりベムの頬を平手ではたこうとした瞬間…、戦女帝がスパイデル王の腕を掴んで制止した。
「…貴公…、何様のつもりだ…!」
スパイデル王はベムを庇う戦女帝に言い放った。
「それは私の科白だ!ベムのマスターは…、この私だ!私の配下に手をあげるのはやめて頂きたい!…ベムは貴公の命令を遂行しようと必死だった…。貴公の命令通りにロイ王を生け捕りに出来なかった結果に終わったが、トラスティア王国を滅ぼすに至っただけでも良しとするべきだろう!」
戦女帝はスパイデル王に言い返し、ベムのマスターが自分であると主張した。
「ふん!小僧…、この戦女帝に免じて、吾輩の命令を反故にした件は不問だ!その代わり、アスティア城で謹慎して貰う!!誰かある、この小僧を連行しろ!」
スパイデル王は戦女帝が掴んだ腕を振り払い、ベムを小僧呼ばわりした挙句、アスティア城での謹慎を言い渡した。
「全てはスパイデル様の為に!」
「!!…(スパイデル王…、いや、スパイデル!やはり貴様は…、世界の頂どころか…、王の器ですらない!!)」
ベムは不満ながらもアスティア正規兵達によってアスティア城へ更迭された。
「さて…、役立たずの小僧には消えて貰ったところで…。このトラスティア城を居城とするついでに『ネオアスティア城』と改名し、王妃を何としても探し出さねばな…。あと、例の商会のあの特注兵器を手にした暁には吾輩が世界の頂に立つ様が目に浮かぶわい!」
スパイデル王はトラスティア城をネオアスティア城と改名し、そこを居城とした。
「全てはスパイデル様の為に!」
「御意…。(ベム…、堪忍してくれ…。もう暫くの辛抱だ…。)」
戦女帝は表向きにはスパイデル王と共にあるも、ベムに対する好意を秘めていた。スパイデル王のベムへの沙汰が自分の首を絞める結果になる事を彼は知る由もなかった。
本編の外伝作品『黒き将軍王』『ラピスラズリの夏の夜』もご愛顧頂けたら嬉しい限りです。




