小さな叙勲式、そして…
自室で身支度を済ませて、父のいる謁見室に向かったケンウッド。謁見室にはロイ王は勿論、ヨシーナ王女とジジョッタもいたが、衛兵や役人はお人払いされていた。
「倅よ、良く来た。」
「父上、見たところ衛兵や役人もいないようですが、何か込み入った事でしょうか?」
「うむ。お前は今日からこのヨシーナ王女を守る騎士となるのだ。その叙勲式をこれから行う。」
「はい。」
普段玉座に座るのはロイ王だが、今回はヨシーナ王女が座っている。ケンウッドはヨシーナ王女の前に歩み寄り跪いた。そして、ケンウッドの左から剣を載せている台を持ったジジョッタがヨシーナ王女の前に歩み寄り跪いた。ヨシーナ王女は起立し、台から剣を取った。確認したジジョッタは立ち上がり、一歩後退した。ヨシーナ王女は跪いているケンウッドの頭の両脇に剣をかざした。
「ケンウッド=フォン=トラスティアよ、汝は騎士として自分の命に代えても主であるヨシーナ=フォン=アスティアを守り通す事を誓うか?」
ロイ王はケンウッドに尋ねた。
「はい。」
「ならば、この誓約書を読んだ上で血判を押すが良い。」
ロイ王は誓約書をケンウッドに差し出し、ケンウッドはしっかり目を通した。そして、ヨシーナ王女の手にした剣で自分の親指を軽く切り、血の付いた親指を誓約書に押し当てた。
こうして、叙勲式は無事に終わった。
いよいよ旅立ちの刻、城門ではケンウッドはヨシーナ王女とジジョッタと共に父との別れの挨拶をした。
「父上、僕達は行って参ります。」
「お助け下さってありがとうございました。」
「本当に…、ありがとうございました…。」
「うむ。倅よ、この書状を四つ葉の騎士団の団長に渡すが良い。あと、餞別として15KGだ。」
ロイ王は寝静まった夜にしたためていた書状と餞別の15,000ゲルダをケンウッドに渡した。
「はい、父上。必ず届けて参ります。」
「うむ、達者でな。皆に風の加護があらん事を!」
「父上、そしてこのトラスティアにも、風の加護がありますように。」
「皆様に真の業を。」
「この国にも…、将軍王のご加護が…、ありますように…。」
ケンウッド一行は父に見送られながら故郷トラスティアを後にした。
夕陽が沈み始めた時、ケンウッドが後ろを振り返ると、トラスティア城は小さな点となっていた。幼い頃から育った地や、厳格ながらも自分に良くしてくれた父の元を巣立つ事を思うとケンウッドの眼には涙が溢れた。
(何故だ…、何故涙が出てくるんだ…。僕はティーンの男なのに…。『ティーン以上の男は自分の涙を見せてはならぬ』と父上から仰せつかっているのに…。)
ケンウッドが溢れ出る涙を拭おうとすると…。
「泣いて…、いるのですか…?」
ヨシーナ王女はケンウッドに尋ねた。
「あっ…、みっともないところをお見せして…、申し訳ありません…。」
ケンウッドはヨシーナ王女の問いに慌てた。
「大丈夫です…。大切な…、存在との…、別れは…、皆…、辛いものです…。だから…、泣きたい時は…、泣いても…、いいですよ…。わたしも…、いっぱい…、泣きましたから…。」
「ヨシーナ様…、ありがとうございます…。」
ヨシーナの優しい言葉にケンウッドはティーンになって初めて遠慮なく涙を存分に流したのだった。




