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「VIP客じゃねぇか、アックス。生物学の議論が捗りそうだぜ」
不意に聞こえてきた声に、アクセルとレイラが顔を上げた。
「やっと会えたな、レイラ。毎日、国境でも越えてんのか」
レイデンとブルースは先の2人を挟んで座ると、愛器を立てかけ、昼食を出す。
「ハイドアンドシークが好きなの。うわ、何そのランチ!? 綺麗!」
レイラはブルースの昼食に目を輝かせ、写真まで撮る。アクセルが覗き込む上から、レイデンも見下ろした。
「“弁当”だ」
「Bentoh……え、これで合ってる?」
ブルースの日本語を真似て、レイラが拙く発音していると、レイデンは顔を歪める。
「止めとけ。今から低生生物に縋らなくても、世界にはまだ取りやすいタンパク源はある」
「ベントスなのか!?」
アクセルがのっかり、レイデンと弾丸的なやり取りを始めると、ブルースは睨んだ。
「あのな、“弁当”は今じゃすっかり英語になってんだから、知っとけ!」
その後、ブルースは3人に日本の昼食文化指導を始める。
彼の母こそ海外生活が長く、故郷の食事が恋しくなるのは日常茶飯事だ。手に入る食品は高価ではあるが、それに近い食材や、手に入った日本産のもので、定番の弁当を再現している。レイラは、技術を感じる卵焼きに感動し、ブルースに分けてもらえて声を上げた。
レイデンは、ハムやレタス、チーズなど一般的な具材を挟んだブランパンのサンドイッチを齧る。1切れを食べきると、横のアクセルのおかずのスープに2切れ目を浸し、味を変えていく。
和気あいあいと過ごしていると、廊下の向こうから騒ぎが押し寄せてきた。振り返った4人の中でも、アクセルが眉を顰め、聞こえてくる最も際立つ悲鳴に思わず立ち上がる。
見ると、学校で自然に飼われるようになった野良猫が、何かを咥え、猛スピードで生徒達の足を抜け、駆けてくる。
『たーすけてー!』
聞き覚えのある声に、アクセルは咄嗟に猫の前に出て、行く手を塞いだ。咥えられたモッキングバードに目を疑うのだが――猫の方が忽ち飛び上がる。猫はアクセルに目を剥くと、甲高い悲鳴を上げて歯を剥いた。
『何でコヨーテがこんなとこにいんだよ!』
その拍子に口から落ちたモッキングバードは、廊下に沿って飛行すると、どこか天井の方に飛び立っていく。
アクセルは、聞きつけたそれに手先が痙攣した。身構える猫は、逃げる機会を必死に窺っている。
「俺は、コヨーテじゃ、ない」
アクセルは半ば苛立ちながらも、騒がず、猫に指を突き付けながら、呟く様に言い聞かせるのだが
『嘘こけ! 臭いも面構えも一式揃えて、そりゃねぇわ! さすがに、そこまでイカれてねぇ! 生徒と教師を区別するよりチョロい!』
「ああ! どいつもこいつも、目がイってんのな!」
堪らず怒鳴ったアクセルに、端の3人は口をあんぐりさせる。他の生徒達もこれを放っては置けず、動画撮影をしながら面白がった。
※ハイドアンドシークは、かくれんぼのことです。
※ベントス
底生生物のことです。水域の生物であり、その中の、水底を這ったり穴をあけたり、水底や壁面にひっついている生物をいいます。 藻類、フジツボ、貝類、ヒトデ、ヒラメ、ハゼ類などの魚類も含まれます。
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