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アクセルと母が病院を出ると、キャシーが立っていた。父にソニアを任せ、その車で迎えに来ていた。
母は一睡もできないまま事情聴取に入り、身体が石になっていた。後部座席を倒し、漸く一息つくと、スイッチが切れた様に寝てしまった。
「何ともなかった!? 信用できるの!? そもそも、何であんな時に限ってデカい声出さないのよ!」
「出してたっつの! 何で誰も来ねぇんだって思ったさ!」
当時は、家族の誰1人、庭での騒ぎを聞いていなかった。
キャシーは困惑を浮かべながら、眼鏡越しに、皺ができた目を瞬く。
車内が静まり返ると、アクセルは、なんとなく外に目を向けた。そうしている内に、景色の流れに乗って、記憶が引き出され始める。
「……なぁ、父さん来てるなら、ガレージにあるトロフィー、回収させようぜ」
「何なの急に。ガレージ片して何しようってのよ。スタジオにするんじゃないわよ」
「ああ理想だな。トロフィーがあるよりよっぽどいい。……違う、真面目な話だ。あんなもんがあるからかもしれねぇんだよ……」
キャシーは、弟にただただ首を傾げてしまう。弟が、父が狩って作った野生動物の装飾品を気にするなど、珍しかった。それらはガレージにあり、不都合はなかったため、家族は処分する事など考えていなかった。
アクセルは、当時のコヨーテの騒ぎを思い出し、身体の冷えを感じた。また、狩猟をする父を想うと、鼓動が速まっていく。
「俺が会った奴が本当に、ハンターを狙うあの男だとしたら……」
声低く呟く弟を見たキャシーは、後部席の母を振り返った後、声を落とす。
「……こんな事考えるべきじゃないけど、仮にそうだとして、何であんたが襲われんのよ」
強張る表情をする姉を、アクセルは横目で伺い、はっとする。
「講師をしてたホリーって人は、どんな話をする人……?」
それもまた珍しく、キャシーは耳を疑いながらも、淡々と答えた。
「私のカリキュラムや仕事は、犬や猫に纏わる事が殆どだった。だから講義のメインは、ハンティングの歴史に絡む犬の改良の話や、昔にどんなハンティングが行われていたかについてだった。例えば、弾を当てやすくするために、囲いに動物を集める方法。或いは、そこに仕掛けた罠で、わざと動物を宙に打ち上げて射殺するとかね。いかに楽に、簡単に仕留められるようにするには、どうすればいいか。そんな事が考えられていた背景があるって話よ」
信号待ちになると、キャシーは指でハンドルを叩く。疲れていながらも、顔は、仕事や勉学に集中する時のそれだった。
「猟犬は、決まった獲物を追う事だけが許された。別の獲物を追いかけようものなら、それは飼い主の飼育の悪さが指摘される事に繋がったの。そういった犬は、すぐに処分された。酷い場合、その場でね」
一呼吸を置くと、車が速度を上げていく。
「今じゃ考えられない話よ。だけど、今は今で、虐待してそのまま命を奪う人がいる。そういった事は、なくなるべきだと思う」
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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