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「それなら可愛い。最高の誉め言葉だ。私は、父親になってからでも、そんな事を言われたためしがない」
どこか調子が狂うアクセルが腰を下ろすと、男性は、優しい眼差しで彼を見下ろした。
「……参ったよ。でも覗き見はよくねぇぜ? プライバシーだってのに」
それは否定しないと、男性は、穏やかに笑いながらハットを被り直す。
緊急搬送されたアクセルの病室は、廊下側から容態が伺えるよう、窓が設けられていた。知人が勤める本院を訪問していた男性は、たまたま、2人の愛らしい様子を見てしまったと言う。
「まぁ、大方正解。でも、そうやって人の事を決めつけるのはどうかと思うけど?」
男性は笑みを静めると、スーツケースの持ち手に両手を預けた。
「ちょっと違う。仕草で人を判断するんじゃない。仕草から伝わるものが何かを観察して、意味を読み解くのさ」
この時、アクセルはふと、姉の話を思い出した。動物と意思の疎通をしようとする姉も、こんな風に分析をするのだろうかと。
「……何でそんなに分かっちまうんだ?」
そして、思わず口にしてしまう。自分は日頃から分かりやすく、レイデンには特に見抜かれてきた。本当のところ、何でも見透かされるのが嫌だった。そんな考えもまた、その男性は見抜いたのか、小さな子どもを見る様に、アクセルに目を細める。
「足元にこそ、関係は露骨だ。あまり目に触れない、隠れた部分の距離が縮まる事は、心を開いていたり、安心している事が殆どさ」
男性は揶揄うのではなく、気持ちを寄せ合っているという行動がどういうものかを教えてくれた。アクセルは気付けば、彼を祖父と重ね、耳を傾けていた。
「言葉とは裏腹に、手足やペンを刺激したりする事。人や物を、つい凝視してしまう事。無意識にうろうろしてしまう事。言葉の癖。どれも、何らかのサインである可能性がある。その意味が、心地いいものか、不快なものかもまた、様々だ。分かりやすいとは言うが、隠し切る事はそもそも難しい。人は、細かいこだわりを持つ生き物さ」
男性にとってアクセルは、ただただ可愛い少年だった。そして自然と、熱く我武者羅に生きて貰いたいと、我が子の様に願ってしまう。
「君達にしか分からない事がある。傍からどう思われようが、君達にしか感じえない繋がりや想いが続いていくなら、それがベストだ。幸せの形は誰にも決められやしない。その道標やヒントを得られる事はあっても、最終的には2人で完成させるんだ」
その時、ロビーの奥から、男性の知人である医師や看護師達が声をかけてきた。男性は、アクセルに手だけで軽く挨拶すると、あっさり立ち去ってしまう。
アクセルは思わず引き止めかけた。しかし、肩越しに見せられた優しくも勇ましい男性の笑顔は、応じる気はないといったところだった。
彼はほんの数日だが、知人を訪ねがてら羽伸ばしに来ていた旅行者だ。拠点はヨーロッパだが、職業柄、事件を耳にすると、所かまわず気になってしまう。これから持ち場に戻るところであり、その前に、仲間に挨拶に訪れていた。
「エドありがとう。せっかく来てくれたのに、ゆっくりできなかったわね」
相手は、警察病院でよく顔を合わせていた元同僚だ。
「こちら、話してたエドワード・ルイス捜査官よ。担当する部門では、必ず指揮官を務めるの」
「大きな声では止してくれ。広まる訳にはいかないんだから」
処違えど、治安の維持に勤める者同士である。彼は聞くまでが限界だが、この地区の騒ぎについてを知ろうと、出発までの少しの間、仲間と過ごした。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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