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身体が燃えている。右手から流れる途轍もない熱さが、身を捩らせる。何処かに横たわっているのだが、妙に浮いた感覚がするのは、浮腫みのせいだろうか。人のものではないあらゆる声が、頭を刺激してくる。そこに紛れて聞こえる発砲音に、大きく飛び上がった。血生臭さや残渣臭、薬の様な臭いが鼻を突く。
閉鎖的な空間にいる様な気がした。焦燥と緊張に全身が締め付けられ、まるで調理をされる肉だろうか。あまりの震えに汗と涎が溢れ、咳き込んだ。暗闇の中、情報を得る手段は鼻と耳しかない。
右手からの痛みが胸を鷲掴み、圧迫感が迫る。酸素を欲しさに、大口を開き続けてしまう。炙られる様で唸ってしまう傍ら、どこか遠くで甲高い悲鳴がした。苦痛に近いそれは、動物のものだった。それらは波の如く押し寄せながら、銀の光に変わると、牙の羅列になる。接近する先端に叫ぼうにも声が出ないまま、それは、顔から喰らいついた――
アクセルは声を上げて飛び起きる。視界は薄暗く、白と灰色ばかりの空間だった。窓に目を向けると、冷たい陽射しが、レースカーテン越しに床を照らしている。殺風景なベッドの軋みに、冷静さが戻った。荒い息遣いが響く病室には、自分しかいなかった。
脇の棚のスマートフォンを取ろうとした途端、包帯が巻かれた右手に瞼を失う。その時、ドアが激しく開いた。
身体が跳ねるのも束の間、駆け込んできた彼女を見た途端、声は自ずと求めた。
「……レイラ!?」
赤らんだ目をしたレイラは、アクセルの肩に触れた途端、耐え切れず涙を零した。震えが、肩から腕、肘と、微かに触れる指先から伝わってくる。
「よかった……下でお母さんと会った。貴方の着替えが要るからって、一度家に帰ったわ……その怪我は?」
その問いかけも余所に、アクセルは彼女の腕を取ると、ベッドから足を出して座り直した。レイラはその隣に座ると、静かに返事を待つ。
しかし、アクセルの口は縺れていた。記憶が断片的なあまり、整理がつけられない。1つの線にするのは難しいが、それぞれのピースに浮かぶ記憶は、伝えられそうだった。けれども
「野良猫だ。前に引っ掛かれたのを放置したら、このザマ」
そう言って笑いながら、視線を毛布に逸らした。自分でも受け入れ切れず、よく分かっていない事態を、彼女に言うなどできなかった。それに
「久しぶり……」
「……金曜日に話したでしょ」
レイラの泣き顔に、とぼけるなと言いた気な笑みが滲む。彼の患部に触れる手は優しく、もう片方の手は、彼の指を取るか取るまいかと行き来してしまう。
彼女の迷ってばかりの冷えた指先に、アクセルもまた、手だけで応えていく。
「……ふざけないで真面目に話して。少しだけど聞いたわ。貴方、昨夜――」
「止めろよ、急に言えるか……それに、そんな事は警察に話す……」
「アックス」
「頼むよ……俺が君にしたいのはそんな話じゃない……」
と、半ば焦りながら彼女の腕に縋りついた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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