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♪Steve Gadd というプロドラマーによる、ジャズのソロを参考にしています。
Steve Gadd | Drum Soloで聴いて頂けます。
日々みっちり演奏しているジェイソンは、目の前でくたびれる3人に、薄笑みを浮かべていた。煩い事は言わず、彼等が回復するまで、仕事で身につけたジャズのソロを打とうと、スティックを握り直す。
幅広いジャンルに挑戦するのも自分磨きの1つで、欠かせないトレーニングだった。バンドを組んだからには、全員が最高のクオリティを持って、世界に行く。そのためなら、あらゆる面でコストをかける。
1970年代よりアメリカで活動している、歴史あるドラマーは、ロックサウンドも打ち出す大きな存在だ。そんな彼の、視覚的にもお洒落なジャズスタイルには、惹かれるものがある。
つい先程の激しい演奏とは違う大人しいリズムは、クールダウンに適したBGMになっていく。
左側に、小さくぽつんと立つ2重のシンバルは、まるでカエルを連れて歩く様だ。ジェイソンの微かな足踏みに合わせて、音を返してくる。口を上下に開閉するそれを、優しいヒットに合わせて愛でていった。
手前のスネアと、その縁を叩く乾いた音のペースは、走り終えた後のウォーキングといったところか。
そのステップに飽きてこようものならば、スネアを連続的に鳴らしてやる。急に背中を押し、脅かす様なリズムは、また元の速さに戻っていく。
それでも退屈するならば、仕方あるまい。右上の広いシンバルで、低めの音をブレンドする。まだ走らないといけないのだからと、手前のスネアを強めに打ち、リズムに変化をつけてメンバーを起こしていく。
眠らせる訳にはいかない。単調では不味いだろうと、目の前で斜めに佇む低音担当の2つの音を巻き込む。唐突に飛び込む、どこか乱雑に思えるリズムは、たった1秒で背中を突いて走らせようとする。そしてまた、最初の歩行リズムに戻った。
テンポは、メンバーの歩行を妙に乱し続ける。リズムが取り難いと顔を歪める彼等を、ジェイソンは面白がった。
叩く強さを増し、同じリズムを刻み続ける。有り余る体力は、出来上がるリズムの道をついつい走り、メンバーを追い抜いてしまう。
再び入る高速のヒットは、見ててみろ、と言い残したのか。最も端で佇む更なる低音担当までを、一直線に叩いて走る。と、スネアとシンバルの強い1発が透かさず響いた。
マイペースを整えたところで、1人マーチングバンドに切り替える。最初に連れていたシンバルのカエルも合わせにきた。長くて速いマーチングの中に、低音達をもっと巻き込もうと、颯爽とヒットを連ねる。
だらだら過ごす3人は、間も無く周回遅れになる。1人で走り切ろうとするジェイソンの音の接近を、はたと振り返った。
迫り来る彼は、これでもかと、ヒットの機関銃を放つと――高所のシンバルを激しく打ってランを締めた。
その音は、まるでプリントアウトのコマンドを送る様だった。しんとなる頃には、目を丸くするメンバーの可笑しな顔が正面に刷られている。
大きく上半身を振って叩かず、常にシャープな腕と手の動きを見せる演奏スタイルは、パソコンのキーボードを打つ時のそれだ。
ジェイソンは、ひと遊びを終えると、余裕の笑みが漲る。
「ほう。そいつがここ1スケベな顔か。イケてんじゃんよ」
「羨ましいならさっさと仕上げろ」
ジェイソンはアイスコーヒーを、レイデンの発言と後の2人のドットの目になった顔ごと、一気に流し込んだ。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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