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車の進みは緩やかだった。目的地の近くまで来ると、アクセルは、パーキングに入るブルースと別れ、後の2人の元へ向かった。もうすぐ着くという連絡をジェイソンに入れるも、すぐの返事はなかった。
歩いていると、電化製品ショップのテレビの前に、人だかりができていた。その後ろを通過しながら覗うと、あの失踪者の情報が再び大きく映されていた。騒ぎ声のせいで、アナウンサーの声は聞こえない。
「この内容も、WANTEDに変わりそうだな」
飛び込んだ声に、アクセルは思わず足を止める。
「被害者が撮った動画から、本人だってのが濃厚らしい」
「奥さんの職業が職業だし、結局、夫婦で騒ぎを起こしたって事なの」
「とんだ動物愛護だな。夫を愛していられる理由がそれか」
浅はかな考えだったのだろうかと、アクセルは、足先から冷たくなっていく。どんなに考えても引っ切り無しに捻じ曲げられ、疲労感が押し寄せた。目まぐるしい速さで、情報に幾つもの手足や羽が生え、移動してしまう。
「医者なら、動物に妙な薬を入れて襲わせたのか?」
「生き物を想うんだとすりゃあ矛盾だらけね」
夫婦が持つ資格は、ちょっとやそっとでは取得できない。自分は、そんな重いものをまだ持った事はないが、この様な事態を引き起こすために、そこまでするのだろうか。
「罪を犯す奴の考えは分からんよ」
心の問いに応えてくる様に誰かが呟くと、人だかりが散っていく。
そこが空白の様になる頃には、別の番組に切り替わっていた。時間にして3分あったかどうかの内に、随分と胸を揺さぶられている。長く、深く考えた今までの時間は、ただ弄ばれていただけなのだろうか。
「今夜はピーナッツバターチキンカレーか、アックス。止めとけ、1週間は臭いが取れねぇ。シンクもそこら中ギトギトだ」
振り返るなり、レイデンが肩に大きく凭れかかってきた。前髪をコーム付きカチューシャで綺麗に上げた彼は、不愛想な目で料理番組を眺めていた。
「いや、うちは大胆にローストチキンで攻める」
「ケツにブチ込むのがお好みとはな。気をつけろ、ハニーが驚くぜ」
会話の方位磁針が狂ってしまうのも構わず、アクセルはレイデンの背中を叩くと、ライブハウスに向かった。
ジャズのリハーサルの仕事を終えていたレイデンは、自販機の飲み物を買いに出ており、紫色をしたエナジードリンクを手にしていた。
「荒波が立ってる内は何も考えるな。どいつもこいつも、急に沸騰しちまう。動物の方が賢いぜ」
呑気な様子ではあるが、しっかり情報を掴んでいる。レイデンは喉を鳴らしながら歩いていくところを、アクセルは早足に追った。
「被害者の行動があまり言及されないのは、どうかと思う」
まるで子犬の様に忙しなく歩くアクセルだが、レイデンは気にも留めず大股で進みながら鼻で笑った。
「可哀想な奴等だ。教育の機会も得られねぇまま、見たモンに片っ端から飛びついて、てめぇだけ楽しむタイプは、碌なイき方してねぇ。俺等のダディを見習った方がいい」
冷静沈着で警戒心のあるジェイソンを、レイデンはいつも称賛している。遠目でしか見た事がないが、ジェイソンのパートナーへの自然な振る舞いにはジェントルさがあり、3人にとっては羨ましい部分だった。
※WANTED=指名手配・おたずねもの情報
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サスペンスダークファンタジー
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