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その子の予定日はかなり過ぎており、以前、人工的に陣痛を起こして出産をするかどうかの話になっていた。しかし、それからの情報は一切報じられなくなり、尾行者が流した話によれば、妻は未だ妊婦だそうだ。耳を疑う話だが、先日挙げられた妻の、夫の傍で産みたいという願いから、彼女の状態は事実なのだろう。
アクセルは、その文面を見た時、妻は夫がどんな状況にあるかを多方面で考えている様に感じた。彼女の、変わらず夫を想い続けていると示す姿勢に対し、たとえ犯罪者であってもかと、鋭い文言が飛んでいるところも見た事がある。
だが、その妻の行いに密かに感銘を受けていた。その夫婦の関係は、他人の目では図れないもっと深いものではないかとも思う。
自分は人にも家庭にも恵まれ、もし家族が罪人になったとしたらどうするかなど、気にしてこなかった。けれども今は、騒がれている夫婦の立場に自分を置いてみている。
昨日のクラブハウスサンドの店にいた2人の生徒の会話を思い出す。1人は最初こそネガティブな意見をしていたが、もう1人の冷静な意見によって、少し考え方が変化していた。
「俺等はもっと、考えられるようにならねぇといけねぇな……来る波に、来たから乗るんじゃなくて……乗ってもいいのかどうかを……」
あても無く宙を見たまま、アクセルは呟いた。ブルースはそれを横目に、ふと、前グレードでの出来事を思い出す。
当時に出会った後輩といい、アクセルといい、レイデンやジェイソンといい、共通している事があった。それは彼等が持つ優れた篩であり、羨ましいほど惹かれてしまう。
「だな……信用できる波を立ててやろうぜ、俺達で」
ギターしかない。それでいいのかを考えさせてくれた皆に返せるのは、音色を生々しいビートに変えて寿命を延ばしてやる、それ一択だ。
「そういや、バラードの歌詞できたぜ」
アクセルは、カードを返す様に顔を明るくさせて言う。ブルースは、それに悪戯な顔をするも、ひとまず何も触れず、ハンドルに力を込めた。
「やるじゃねぇか。これでイベントに間に合う。今日は選曲でひたすらランだ」
来週の土曜日は、ライブハウスでイベント参加を控えている。複数のバンドが週末を盛り上げる、毎月行われているイベントだ。いつも希望者が多く、初めて参加するバンドを優先に、抽選で決められる。
「ああ? そういやあん時、参加者名は何て書いたんだ?」
ブルースの疑問に、アクセルは徐々に青褪める。
「……マズい。マスターに確認した方がいい」
やっと当選が叶った嬉しさで、すっかり抜け落ちていた。抽選の応募は全てレイデンに頼んでいた。
※グレード=学年
※ラン=通し。頭から終わりまで通す。
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サスペンスダークファンタジー
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