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貴族が撃ち落とせないなど、あってはならなかった。多くの鳥を驚かせ、飛び立たせては、撃ち落としやすい環境作りに励んだとされる、見世物狩りがあった。適切な服装で、適切な銃を持つ。そこに優れた猟犬をつける事も、当然だった。
数多く生まれた犬の内、どれを鳥専用とし、兎専用として育てるか。また、獲物の肉を引き裂く専門、追い詰めた獲物に更なる苦しみを与える専門も作られたとされている。その為に脚を伸ばすのか、短くするのか、毛色をどう変えるかにもこだわっていた。それもまた、猟銃の性能が上がるに合わせて変えられた。
「ポインターとしての役割をあまりに刷り込まれたお陰で、犬が凍った様に動かねぇってのもあったんだと。ロボットみてぇに、設定された動きしか取らない」
ハンチング帽の男の話に、髭の男は首を振りながら笑うと、スパニエルの首を掻いた。
「こいつらは救われてるさ。当時は、そんな優れた犬を揃えて己の富を晒すのが目的だった。今でも似た様な奴を見るが、それが一体どうしたって返されるのがオチだ」
考えがマシになったのだろうが、決してそれがゴールではない。生物に対する考え方は、時代と共に変わりつつある。否、時間をかけてでも変えていく必要があり、やっと変わってきたところだった。
しかし課題は残されている。昔話だと語り、マシになったなどと言うが、可愛いくて美しく、性格の良い犬の生み出し方は健在だろう。
適当に話したところで2人は立ち上がると、犬達も表情を変え、飼い主の視線を追う。虫の声が微かに響き、それ以外の気配はない。動物達が寝静まっている内に捕獲するのもまた、1つの楽しみだった。
月がぼやけ始め、奇妙な黒い雲は、まるで故意に線を加えた様だ。だが、空の歪さなど彼等が気付く筈もなかった。ランプを片手に、通路と呼べるかどうかも定かでない茂みを、慣れた足取りで踏み込んでいく。その顔には、怖いもの見たさが滲んでいた。
周辺から地面ばかりを気にする侵入者達を、彼は、木の上から眼を尖らせていた。2人が遠ざかるにつれ、腹から喉に振動が這うと、歯を喰い縛りながら獣の唸りを零した。
どこからかの唸り声に、警戒していた犬達が来た道を振り返って唸りだすと、何かに向かって吠え続けた。だが、飼い主の2人は何の気配も感じられず、取り敢えずの構えを取る。その時、全く別の甲高い吠え声がした。
「コヨーテ? ここは、トラップと柵が近ぇところだったか?」
男はハンチング帽の鍔を上げ、目を見張る。
「増やしたのかもしれない。なに、あいつらが人を襲うもんか。脅せば逃げていく、犬と似たもんよ――」
髭の男が言い終わるのが先か。何かの群が飛翔した。それらの騒ぎは身を揺さぶらせ、2人は悲鳴を上げて屈む。続けざまに飛び交う吠え声が、その場を覆い尽くし始めた。
と、何らかの摩擦音が頭上を過ぎ、2人は仰ぎ見た。まるで星か、はたまた激しく飛び交う蛍か何かか。幾多もの細かい銀の輝きが頭上を埋めている。目にも止まらぬ速さで降りかかってようやく、耳を刺す様な奇声から、鳥類だと気付いた。
2人は飛び上がり、走り出す。犬達は、獲物を威嚇しながら役割を果たそうとする。しかし、その数は途轍もない上に凶暴なあまり、捕獲どころではなかった。
※ポインター
じっと見つめる意味からきています。ポインターをあてるなどの言葉もありますね。獲物がここにあるというのを、見つめて示す動作です。
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