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夕暮れの光を早々に閉ざしている森林は、鳥と共に眠りに落ちている様だった。幾多の散策路が伸びるそこは、湿っぽい草木と土の匂いに満ちている。
側の森林公園は、週末、家族連れを中心にキャンパーや猟師がよく集まる。しかし、事件を機に、そこの敷地内への立ち入りは禁止されていた。にもかかわらず、生い茂る草木の合間から、小さな薄明かりが見える。
寒気が増した森の中で、猟犬を連れた2人の男が火を焚きながら、辺りを小まめに気にかけていた。彼等の脇には、鹿や熊を狩る際に主に使用されるライフルと、近頃で人気のアーチェリーが、冷たく寝転がっている。
ハンチング帽を被った男が、沸騰する音に振り向くと、褐色のケトルを取った。コーヒーを少し含むと、横に伏せているブラッドハウンドを撫でる。
「そう言えば、その犬の歴史は、随分とおっかないんだって?」
その向かいの髭を蓄えた男が訊きながら、厚手の焦げ茶色のキャップを被り直す。
「目的を果たすためにこしらえられた生き物だ。それを考えりゃ、一番おっかねぇのは何だ」
質問に答えた男は咳払いすると、再びコーヒーを飲んでは、周囲にじっと目を凝らす。
黒と茶色をした身体に、耳、顎下、首周りの肉が大きく垂れ下がった特徴的な大型犬ブラッドハウンドが、顔を上げた。嘗て、血の匂いを手掛かりに奴隷探索に同行させていたとし、その言われ通り、獲物の血の匂いを追う事に優れている。
「そうは言っても、俺達が生きるためには仕方ない話さ。それに悪い事ばかりじゃない。今日はもしかしたら、市民を救う最高の働きになるかもしれないんだぞ」
髭の男の呑気な笑い声に、その横のスパニエルがくしゃみをした。
白を基調に、黒の模様が混ざる中型犬スパニエルは、被毛が整えられ、滑らかな手触りをしている。長く柔らかな毛を持つ種類もおり、それはまるで、人形の様な見た目をしていた。鳥猟に特化しており、ターゲットを追い込む事や、回収する事にも優れている。しかし汎用性もあり、訓練次第では、陸の小動物も追い詰められる。
「仮に銀の男をとっ捕まえたって、俺達は禁止区域に入ってんだ。結局は何にも貰えねぇオチかもな」
そうは言うものの、男は空になったカップを仕舞うと、辺りに忙しなく目を這わせる。
「なに、そいつの奥さんは喜ぶさ。探して欲しいって、ずっと貼り出してんだ。もし1世帯を救えたなら、その証は消えない」
目力を添えて発した髭の男は、スパニエルを乱暴に撫で回しながら続ける。
「しかしハンティングの規制も厳しくなったもんだ。野生動物の保護を考えての事だってんなら、今は動物サマサマだな。そうやってマシになりつつあっていいもんだろうってのに、うちのかみさんは、さっさとハンターを卒業しろって煩い。毛皮のコートを着ながら」
「心配してくれる家族がいるだけいいじゃねぇか」
男は静かに笑うと、ハンチングの鍔を僅かに上げ、視界を広げる。
彼等はもう暫く、昔の狩猟の世界なんてと、かいつまんだ程度の知識を共有し始めた。
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サスペンスダークファンタジー
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