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カウンター席にいるハンチングを被った客は、アコースティックギターを横に、グラスを置いた。
「お宅のところは相変わらず景気がいいね」
「いや、別にうちが特別何かをしてるんじゃない。場所と飯を出すだけだ。あとは連中が勝手に育つ。全ては持ち前の才能だ」
マスターは、客にコーラのお代わりを差し出す。
「ライフルを捨ててギターとは、随分極端だな」
マスターは、筋肉が詰まった両腕を組みながら、酒棚に凭れる。と言っても、今はソフトドリンクと軽食メニューのみが並んでいた。
「いやいや、ギターは元々片手間にやってたよ。あんなおっかねぇ事件を聞いたら、行ける訳がない。知り合いにも止めるよう言ったさ。殺されてないのが奇跡だ」
客が話す例の話題に、マスターはそっと頷く。
巡る情報によると、目撃された不審者は、獣の様に爪や牙を立て、威嚇すると言われていた。森林の闇に浮かび上がる姿は、眩しいほどに銀を放つのだ、とも。兎や梟、狐といった野生動物が、奇声を上げて人を襲う。まるで、森から出て行けと言わんばかりの獰猛さだった、と。
「ハンターに恨みでもあるのか、見事にハンターしか襲われてないだろ? とぼけた噂によりゃあ、例の失踪者が、動物を調教して襲わせてるんだと」
マスターは鼻で笑い、拍子抜けする。胡散臭い情報はさておき、これ以上の怪我人の発生が止まる事を願うばかりだった。
「原因が野生動物だってんなら、さっさと捕獲して調べるか、駆除すりゃいい事だ」
「まぁたギンギラギン野郎の話かよ。調教師ぃ? 止めてやれ、ミスター。奴のハニーに狩られちまうぜ」
横入りした声に客が飛び上がると、マスターがレイデンに軽い挨拶をしながら、ファイルを取り出した。
「明日は午前中に2時間、みっちりジャズのリハだ。報酬はリーダーから直接な」
レイデンは、中のスケジュールを眺める。その間、ブルースとアクセルは、その場の皆と挨拶を交わした。
「おい坊主。まだその辺の関係性は、ハッキリしとらんだろう?」
客の問いかけに、レイデンはスケジュールを仕舞うと、ワンプッシュでサングラスのレンズを弾き上げ、にんまりする。
「どんな奴にも没頭する存在がいんだよ。肌や声で感じて構築したモンは、いくら歪んだって切れねぇ。俺はそう感じちまうね。ミスターは経験してそうに見えるが、違ぇの? 俺が奥さんなら、今頃あんたを狩ってトロフィーにしてる」
客が素っ頓狂な声に、マスターの笑いが覆い被さる。
「止めとけレイデン。じじいの上半身のお飾りなんざ、悪趣味だ。壁が吹き抜けになってる方がマシだ」
「ホーンテッドハウスなら有りだ。敷物になれば着地していられない」
ブルースは、ハロウィンのお化け屋敷の仕掛けにどうかと揶揄う。と、アクセルが透かさず知識を引き出した。
「綺麗なスカルにするなら煮込みがいい。臭いも気にならねぇ。漂白剤を使えばいい白さになる」
父が猟師なだけに、獲物の装飾が誕生する過程は少し知っている。相手の客は、アクセルの発言に意外さを感じた。そこへ
「名案だがな、そいつはただの骸骨だ」
今朝に比べて格好が整ったジェイソンが、奥のスタジオに続く入り口の柱から放った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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