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コルシカの思い出  作者: 九JACK
十周年記念
46/47

人は、描き続ける

「日本のアニメ、無事に復活するといいね」

 春子たちと別れ、ホテルで合流した四人。ニノンの呟きにルカは「そうだね」と頷いたが、ふとよぎる。

 それは本当に、幸せなことなのだろうか。

 哀音の兄は、絵を愛していたけれど、認められることは、当然嬉しいのだろうけれど、この世界において、絵は消耗品だ。人々の暮らしのために必要な生活必需品。絵を消費して、電気を使い、灯りを灯している。

 愛するものがただ消えるだけの世界で、その人はまた、笑えるのだろうか。

「なーんかまたぐるぐる考えてんだろ、ルカ。一人で考えてねーで話せよ」

 アダムが無言のままのルカの背を叩き、ぐいっと肩を引き寄せる。気さくすぎるし、距離が近い。が、今更だ。それに、悪い気はしない。

「本当に幸せなのかなって」

 ルカは考えたことをぽつりぽつりとこぼしていく。絵画を消費する世界で、絵が好きな人は笑顔を取り戻せるのか、とか。価値あるものと認められたとして、絵がなくなったことを悲しまないか、とか。

 あー、確かに、とアダムは苦い顔をして口ごもった。

 けれどすぐ、「でもさ」と朗らかな声で続ける。

「どんなに複雑な事情があって、心ん中がぐちゃぐちゃになっても、描きたいやつは絵を描くもんだよ。それくらいのどうしよーもない『好き』ってこった。少なくとも、俺はそう」

 認められないことの方が、きっと悲しいぜ、とオレンジ色が笑う。

「アダムちゃんが言うと、説得力があるわね」

「そりゃ、絵を描くからな」

「確かに、哀音さんのお兄さんの話はそちら側の人って感じがしたわ。だからきっと大丈夫よ。AEPが普及したから筆を折ったっていう話はあまり聞かないわ」

 消えるからって、絵が嫌いになるわけではないのだ。もしくは、消えることさえ愛おしんで、人は描く。

 そういう強かさがあるのだ。

 人が描き続けているから、絵画エネルギーはエネルギー源として成り立っている。

 ……思うより、心配はいらないのかもしれない。


大変お待たせ致しました。これにて10周年記念は完結です。


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