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小田天庵記  (旧題:戦国アイドル小田天庵)  作者: 山城ノ守
奉公先は名門”おだ”家
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第十八話 寄り集まれば文殊の知恵

 八幡は各組に作業をさせながら、それぞれの業種から一人ずつ引っ張り、何か良案が無いかを尋ねながら解決策を練る事となる。


「まって、まず、資材って足らなくなるものなの?」


「初めからどこに何を作るかと全部決めていればそうはありませんが……何分、この普請自体が急であるのと、曲輪ごとに委任されているので丸太のまま渡されていましたから、量が不足したのではないかと」


「あと、夜な夜な大きな丸太を信太外記様の手勢が持ち出したようです」


 八幡の疑問に、太兵衛と加茂兵蔵がそれぞれ答える。

 八幡は怒るよりは呆れ果て、溜息を一つ吐く。


「嫌がらせかよ……まぁ、あっちも資材が不足したんだろうけど……」


「どうします?」


「いや、どうしますも何も、資材を集めるっきゃないだろ」


「でも、どうするんですか」


「いや、木や竹なんてそこら辺にあるじゃん。それを伐るってのは?」


 八幡は事の重大さをまだ理解できておらず、手間が少し増えるぐらいの認識で近場の森を指さした。

 しかし、太兵衛は再び溜息を吐いて首を左右に振り、加茂兵蔵は苦笑いを浮かべる。


「いや、山も森もほとんどの場所は入会地として村の共同所有か、寺社勢力、領主のどこかに帰属してますから、ほとんど無理ですね」


「……マジかよ。じゃぁ、買うしかないじゃん」


「……というより、これだけ予算が余るのは、予め資材の不足を予見して過分に支給されていたのでは……?」


 太兵衛も今更ながらに気がつき、先日からの違和感がこれだったのかという納得と後悔が胸中に湧き出す。

 八幡は目を丸くし、その後肩を落としながら語った。


「はっ! それ、早く言ってよぉ~」


「そうは言われましても……どうしますか。三十五貫に満たない銭では、この先倉庫に矢倉、城柵を立てる事もままならないなんてことに……」


「まずい、それは非常に不味いな。土塁に囲まれただけの長屋群とか、それただの環濠集落。マジそれ吉野ヶ里。というか吉野ヶ里の方がマシじゃん」


 今一緊張感が無い言動であるが、八幡の背骨沿いと脇の下は汗で薄黒く染みができていた。緊張の冷や汗を流しているが、そのまま萎縮して身動きが取れなくなったりはしない性格なのが僅かな救いである。


「ヨシノガリ……は存じ上げませんが、何か刈り取るのですか?」


「いや、なんでもない……冷静になろう。本当に不味い、何か本当に案はないか……?」


 八幡は一呼吸おいて冷静になり、一層真面目に考え、周囲の雑多な職種の者たちに視線を向ける。


「これじゃぁ、資材が足らなすぎてなぁ。今から全てを竹に変えてどうにかなるか……でも、竹なんかは使い所が限られるしなぁ……」


「それだ! 竹は比較的安価なんだな? そして輸送も幾分楽だよな?」


「え? えぇ、そりゃ、まぁ……」


 八幡は何らかのヒントを得たのか、閃いた様子で指を鳴らし、これを呟いた旅芸人一座の男に顔を向けた。

 芸能一座は安価な竹を旅先の仮設舞台の骨組みに用い、使い終われば加工して子供の玩具にするなどして扱いに慣れ、身近であった。


 しかし、この案には番匠が声を揃えて反対する。


「いやいや、冗談言っちゃいけませんよ。竹で小屋とか矢倉を立てろって? 無茶にもほどがありますよ」

「そうです。強度は足らねえし、釘も打てねえから話にならないぜ」


「いや、そこは木だ。城柵用の木材を全て建築に回してくれ、それで不足する木材は買い足して、後は竹にする」


 これに対し、八幡は城柵用の木材を転用して長屋と櫓、倉庫の資材とすることで解決を図る。無論、これで足りない分は少量買い足すが、残りを竹にすればどうにか遣り繰りの光明が見えだしたのだ。

 だが、一同は残りの銭で竹を買う理由がわからず首を傾げる。


「……そりゃまた、なんでですか?」


「説明は後だ。誰が調達に向いてる?」


 八幡の問いかけに、行商人、僧侶、極楽寺の武僧がそれぞれ手を上げた。


「それならあっしが。行商人ですから、八駄一貫程度で安く木材を買い揃えて見せましょう」


「そういう事なら、拙僧どもは、僧侶ですからな。托鉢でもしつつ、裏山や裏庭、所有地なんかから竹を貰えるようにお願いして回りましょう。木は無理でも、育ちの早い竹なら頂けることもあると思います」


「おう、それならこの近くに極楽寺の(そま)もあるぞ。山手料を払えば出入できるしな。我々ならどこにどういう資材があるかも心得て居る故、竹くらいなら伐って来てやろう」


 杣とは、官有地や寺社の私有地でありながら、山手料という手数料を払う事で、薪や肥料となる枯草、薬草類などを採取することができるようになる山林である。南常陸の大宗教施設極楽寺が権勢を誇る時代、小田領内には多くの杣が存在していても不思議ではない。


「おや、お坊さん。杣で伐採なんていいのかい?」


 芸能一座の男が不思議そうに問う。山手料を払ったと言えども、木や竹は重要な資源物資であり、時代が進むにつれ管理は厳しくなっている。既にこの頃からこれらの伐採は禁止され、木材の搬出は厳罰ものであった。

 だが、極楽寺の武僧は軽く笑いながら答える。自分の所属組織だから大目に見てくれようと言う余裕も相まってだろう。


「木はさすがに不味いが竹に関してはどうにかなろう。それに、竹には今の所明確な禁令はないしな。事情を話して御許可を頂けば問題ない。まぁ、任せておけ」


 たった数日で親しくなったとはいえ、元々はお互い見ず知らずであるにも拘らず、率先して協力を申し出る皆に八幡は深く感謝し、一人一人の手を取って頭を下げて回る。

 そして、円座の中央に立ち上がると、勝利を確信したかのような晴れやかな声を挙げた。


「忝い! みんなありがとう! 良し、では散開して作業再開!」



 五日目の朝。

 南の方から聞こえる騒音に目を覚ますと、先日使いに出した者たちが川舟で戻ってきていたのだ。行商人が遠くから手を振り、(ふんどし)姿の男たちを引き連れて大量の資材を運び込む。

 そこから少し西にずれた方角の道からは、牛四頭に一定の長さに切り揃えて束にした竹を背負わせ、自らも背の籠に大量の筍を背負いながら錫杖を打ち鳴らす僧侶。

 反対側からは七人の武僧が長くて太さのある竹を十ほど束ね、さながら苦行をしているかのように縄で引きずりながら現れる。


「材木、調達してきましたよ。相場よりは安くね。手間賃はいただきますが」

「我々もご厚意で竹と、筍を頂いてきましたよ。後で炊き込みましょう」

「おう、杣からも切ら出した竹を運んできたぞ! まだあるから人を送ってくれ!」


「おぉ……!! 助かった! 皆のお蔭だ!」


 八幡は表情を明るくし、命が繋がったと安堵して胸を撫で下ろす。

 

「建設計画を少し変更する! 皆! 引き続き協力を頼むぞ!」


「おう!!」


 そして、広場に集まる皆に再び細かく指示を出し始めた。


「まずは竹を指定した規格の長さに切りそろえて、節の部分を突き破って完全な筒状にしてくれ。それを筏状に束ねて隙間なく並べて塀とする!」


「ただ、それでは耐久性に問題はないのであろうか? 竹では割れるし、すぐに破壊されるのでは?」


 戦慣れしているのか、武僧が竹の強度を疑問視する言葉を投げる。

 しかし、八幡は想定済みとばかりにこれに答えた。


「大丈夫。河原者の人たちに河原の砂利を持って来てもらっているから、それを土と共に竹に押し込んで圧し固めるんだ。そうすれば鑓や矢も貫通しないし、竹自体が割れてもしばらく持つから、戦中にすぐさま取り換える必要も無くなる」


 僧侶の一人がポンッと手を打ち、思いつきを溢す様に八幡へ提案する。


「それなら、表面は土で塗り固めてしまってはどうでしょう? 見栄えも良いですし、矢くらいではびくともしなくなりますよ」


「それ採用! 必要なのは藁と土か?」


「今回はまず、曲りや細さ等の理由で壁に使えなかった竹を土台にしましょう。とはいえ、ここらへんは普通の土壁同様です。細く割って、格子状にして編み、主軸となる竹壁に括りつけて固定。藁と土を混ぜたものを塗り込んでいくだけですよ」


「なるほど。後は、雨が降らないことを祈るばかりか」


 八幡は素直に頷き、細かにメモを取っていく。

 僧侶は仲間のもう一人の僧侶に声をかけ、空を見上げると天の具合を話し合い、そして話を続ける。


「そうですね。しかし、暦では春に入ったとはいえ、まだ寒さと乾燥が続きます。そう雨も降りますまい。日照りさえよければ乾かすのにそうは時間がかからないでしょう。ただ、問題となるのは乾かす時間を考えると十日後までに披露できる形になるか……」


 今から壁を作り、そこに塗るとなると少々手間である。その上、十日ほどで完成という話を聞いているため、最終日ギリギリに塗り終わったとして、渇いてないものを披露するにはどうかと考えあぐねたのである。


「部分的に要点だけそれで行けばいいさ。それに、今はそもそも急ごしらえで実戦に耐えうるものという注文だ。後々改修していくように提案を織り交ぜる形にするさ」


「ではその際に一言。今から塗る土壁も急ごしらえで雨などによる劣化があるでしょうから、余裕のある時にきちんとした土で塗り直すことも添えて進言なさってください。そうすれば手入れの手間が大きく減りますので」


「なるほど。御助言感謝する! 本当にありがとう!」


 八幡は何度も頭を下げ、感謝を言動に示す。

 普通の武家ではありえない様に、周囲は暖かな笑みを浮かべながら語らい合い、普段なら嫌になる賦役や重労働が思わず楽しく感じられていた。


「なんだか、八幡様は素直で面白い人だなぁ」

「親しみやすいし、仕事もしやすい」

「誰かに似てると思ったら、氏治様みてぇだ」

「確かに、どこか放ってはおけねぇもんなぁ」


 雑多な集まりは僅か五日で完全に打ち解け、すこぶる順調に作業が進んでゆく。

 隣では信太外記による外記門と名付けられた壮大な高麗門が設置され、屋敷と長屋、櫓などが立ち並んだが、一番の要である堀と土塁の造成があまり進まずにいた。

 信太外記は七十貫の他に、自腹まで切って番匠をかき集め、材料を買い集めて制作にあたらせたが、番兵役には一切声をかけず、外記の家臣が雑な指示を与えて堀と土塁作りに当たらせていたのである。


「わしら、ごっぢでよがっだなぁ。あっぢはづまらなそうだ」

大切(だいせづ)にされでねぇだ。そりゃぁ、やる()もでねぇべ」


 八幡側の曲輪が日夜楽しげに仕事をしているせいもあってか、信太外記側の曲輪に居る番兵は、一層やる気を落し、数こそ多いが能率は非常に低い状態であった。

 一方の八幡側は鉄堀串と名付けられたスコップの効果もあり、みるみる造作は進み、序盤出遅れた感があった八幡側の普請も十日後になってみれば十分な完成を見たのである。

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