『卒業試験8』
今回二日目みじかいな
教頭がぼっこぼっこにされ連行された後、俺たちは『スラム街に行き、そこに魔力で咲く花「魔桜」の種を植えて、三分で咲かせる』というお題のためにスラム街に向かっていた。
「しっかしあの教頭サイテイですよね!」
「うむ、か弱き乙女の湯あみを盗撮するとは本当に許せんわ!」
か弱いって、一応お前らランクSクラスのモンスターなんだが・・・。
「まあ、あの教頭は以前から妙に女癖が悪いといううわさがあったからな。これを機に新しいまじめな教頭を探さないとな」
「そんな噂があったならさっさと首にすればよかったじゃん・・・」
「一応あの男はある貴族に連なるもので、学校側としては手出しができなかったんだよ。ま、今回のことがきっかけでそんなことは完全にできなくなるがな」
「だろうな。そんな問題を起こす奴がまた出れば、その貴族にとってもめんどくさいことになるだろうしな。・・・ところでモッセマンさん、さっきから近寄ってくるのやめてくれませんかね?かなり目立つんですけど」
そう、今俺たちはスラムへ向かっているがその際にお題の実行を見届ける「監察官」としてモッセマンさんも一緒に来ていた。しかし、モッセマンさんの格好は監察官の証であるという全身真っ青なぴちぴちのスーツを着ている状態で正直言って気持ち悪かった。
「なにをいうかね、それだったらゼロ君の従魔たちも目立つだろう」
その通りである。一応スラムは治安が悪いためハクロたちも一緒に出して歩いているが、何せ皆それぞれが普通のモンスターと違って人間に近い見た目をし、なおかつ美しい見た目をしている。それが目立たないはずがなかった。
「見ろよあいつが連れているモンスターたち。かなりレベルが高いな」
「ああ、そこらの女なんかよりもずっと美しい容姿をしているぜ」
「俺の彼女よりもきれいだな」
「何いってるのよあんたはーーーーー!!」
・・・なんか誰かがきれいな放物線を描いて飛んで行ったな。
「なんか飛んでいきましたね」
「あそこまできれいなアッパーカットは見事じゃのぉ。なかなかやるではないか」
「それにしても、スラム街へ行くのはいいけどいったいどこにこの魔桜の種を植えればいいんだ?」
「なんせ魔桜だからな。かなり広めの場所に埋めなくてはなるまい」
そこに今回のお題のむずかしさがあった。
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『魔桜』
魔力を糧として育ち、そそがれる魔力が多いほど早く成長し、薄く光り輝く花を咲かせる一種のモンスターともいえる植物。地球のソメイヨシノに見た目は似ているが、かなりの巨木になり、その桜の花びらの色は青色だが魔力の質によってその質は異なる。一応モンスターみたいなものと言われるのは、切り倒した時にその巨木が残らず、その場に甘い超巨大なサクランボが一つ残されるからである。その実はポーションの材料にもなり、かなりの効果が付くらしい。
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鑑定した結果、その桜はどうも巨木になりやすいらしい。つまり、成長途中で人々に迷惑をかける恐れがあるのだ。
「今回の基準としては、花が咲いたらになっている。そこまでだとそれなりに育つからな。スラム街とは言えども、そこの住民に迷惑がかかるからな」
ちなみに、本来勝手にこのようになにかスラムに影響を与えるような行為は禁止されているが、今回は卒業試験なので特別に見逃される。
「しかし、だれがこのようなお題を出したんだろうな」
「昨日の夜、厳選した時はなかったんだがな。となると誰かがそのあとに入れたのか・・・?」
「え、そんななんかわからないもん許可していたんですか?まさかこれ何かやばい奴の種とかじゃないよね?」
「まあ、そんなやばい奴でもゼロ君のモンスターなら何とかなるだろ」
「気軽に言わないでくれる!?」
「いくら我たちでもどうにもならないようなもんが出たらどうするつもりじゃい!!」
「ソレナライッソナニカヤバイモノナラ、コノヒトヲギセイニシテニゲル?」
「いいわねそれ。だったら今のうちに縛り上げて身動きできなくしますかゼロ様?」
何か女性陣からすごく物騒な意見出てる。
モッセマンさんがその会話に冷たい汗を流しながらも、なんとなくよさそうな場所が見つかった。
「とりあえずここでいいか」
「一応あたりに人はいないし、結構スペースありますよ」
「では、ここにするかの」
全員の意見が求まり、お題を実行することにした。
「では、今から植えて魔力を注ぎその花が咲くまでを計測します。それでは・・・スタート!!」
開始の合図とともに、素早く地面を掘って種を植え、そこに魔法を使う要領で一気に魔力を注いだ。
見るみるうちに魔力が地面に吸い込まれ、そこから芽が出てあっという間に育ち、つぼみが付き、膨らみ、きれいな桜が咲いた。
「ここまでかかった時間、2秒48!よってお題達成確認!!」
「やったぜ!!」
「見事ですゼロ様!!」
「なかなか大量の魔力を注いだのぉ」
「ケッコウキレイ・・・」
みんな思い思いの感想をその花に述べていた。その花の色は全体的にほのかに淡い水色で、満開の光景が目の前にあった。
その魔桜はどうやらかなり目立ったようで、あちこちからやじ馬が集まりだし、なぜか花見のようなことをするものまで現れ始めた。
「うわぁ、かなりの人が集まってきましたよ」
「ここまで見事だと切るのが惜しいな。国に掛け合って新たな名所にでもする方がいいだろう。とりあえずゼロ君、今日のお題はすべて達成が確認されたから、もう部屋に戻って明日の筆記試験に備えたほうがいいよ」
「あ、そうだった。ではこれで失礼いたします」
本当はそこでまだ魔桜を見ていたかったが、明日の試験もありはやめに戻って勉強して備えるのが大事だと思った。
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そのスラム街のある一角で、二人の人影があった。
「ふむ、あの質から言うと相当魔力を多く注いだな。これはめったに見れない見事な光景ではないか」
「ええ、正直言ってあのお題が選出されるとは思いませんでしたが、結果的にいい方になりましたね」
「やはり彼こそあのお方の生まれ変わりかもしれんな」
「では、もう彼に接触をいたせばよろしいのではないかと」
「いやまて、まだ時期が悪い。もうしばらくまとう。ついでにこの魔桜も眺めておこう」
「・・・そうですね。久々にゆっくり致しますか」
二人は魔桜を見つめ、しばし自身の任務を忘れて久しぶりにゆったりとした時間を過ごすのであった・・
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(ふむ、あのような莫大な魔力を持つ人間がいたとはな。しかも従魔にはあのエンシェントドラゴンまでもが付いている。ふふ、これは我が主が聞いたら喜びそうなことだな)
そのモンスターはゼロを見て、心の中で自身が仕える主がその報告を聞いた時にどんな反応を示すか思い巡らし、その予想通りの反応になるだろうと確信し、その場を静かに去っていったのであった・・・
ちなみに、前回のおまけ話
「そういえば、スラ太郎の写真だけなかったな」
「あー、入浴時にはなぜか透明になってしまうんですよね」
「それで映っていないのか」
「いや待て主殿よ、ここにほら、うっすらとなにか映っておるわ」
「ん?・・・なんかさ、人の顔に見えないか?」
「どれどれ・・・あ。ゼロ様、あと数人この場にいるものをぼこぼこにしていいでしょうか?この場にいる人物ですよ」
その時、その場で肩がびくっとしていた男たちは自身の死を覚悟したという・・・。




