『リーゼ コンサート1』
できるだけ日常回みたいにしています。年月が飛びすぎないように慎重に・・・。
家を買ったので、今日俺は、中に入れる家具を探して王都の家具屋を巡っていた。一応、屋敷サイズなので中のどの部屋に誰が入るのかを話し合うために従魔たちは残ったがな。というか、みんな従魔用空間から引っ越すようである。一応、また遠出する時があるからある程度は残すようだけどな。
というわけで、1人でいると道端で声をかけられた。
「すいません、少しお時間がいただけますでしょうか?」
その声の主を見ると、いかにもなんか苦労してそうな青年だった。
「えっと、どちら様で?」
「私はこういった者でございます」
名刺を渡してきたので受け取って見てみると、今、王都でやけに流行っているアイドル事務所「ビスド」の社長だった。というか、この世界にも名刺あるのかと思う以前に社長自ら来たのか。
「アイドルグループ『ボーケンシャッ‼︎』のマネージャー兼社長のゼルゲさんですか」
なんか適当な名前のアイドルグループだな。こんなのが流行るなんて世の中わからないな。
「はい。ああ、私どもはゼロさんのことは知っていますのでわざわざ自己紹介しなくても結構です。それでですね、今度王都にてコンサートをする事になったんですが、昨日急遽メンバー全員が「アイドル辞めて普通の女の子になります!」と言っていなくなりまして・・・」
どこの世界でもそういうことはあるのか。しかし、いきなり全員辞めるとかついてないね。
「それでですね、なにせ今回は王都のとある会場を貸し切ってしまっているため、誰もいないんでやっぱり会場いらないですとか言ってしまうと、高額なキャンセル料が発生してしまうんですよ。しかし、私どもの事務所では今回のコンサートに多額のお金をかけ、さらにチケット回収のお金もかかり、払えなくて倒産してしまうんです‼︎」
そりゃまた大変な事になったな。その辞めたタイミングが最悪だな。
「で、このまま会場をキャンセルせずにどうにかできないかと我々は考えました。そしたらですね、なんでもゼロさん、あなたの従魔にはダンジョン都市で大人気の絶世の歌姫とまで言われたセイレーンがいると知ったんですよ。それでですね、」
「つまり、リーゼにステージに立ってもらってキャンセル料を払わずに済むようにしたいということか」
「その通りですよ‼︎」
なんともまあ、わかりやすいことで。
「だが、リーゼは従魔とはいえモンスターだぞ。モンスターを嫌うような奴らがいるかもしれないし」
王都にもモンスター差別主義みたいな人たちがいて、従魔だろうと所詮はモンスターだから排除すべきだとかいう人がいないわけではない。
まあ、スラ太郎なんかのようなみんなに可愛がられる従魔もいるからそういった人は最近いなくなったらしいが。差別したらたちどころに王都中から非難されるからな。
「大丈夫です‼︎リーゼさんはその歌で感動を与えますし、そもそも嫌う人がチケットなんて買いませんよ!もう1000枚分完売しましたからね!」
「ん?・・・って、もう決定して売ったのかよ⁉︎」
まだ了承していない内に売るとは・・・なんかアイドルたちが辞めた理由がわかったような気がした。
一応、まあ別にいいとは思ったが、リーゼに聞いてみるため屋敷にゼルゲさんを連れて戻った。
どうやらみんなそれぞれ決めたようで、リーゼは庭にある池で泳いでいた。
「リーゼ、ちょっといいか?」
「◯」
池からリーゼをだし、コンサートのことを話すと、目を輝かせていた。どうやらやってみたいらしい。
「リーゼもいいようだけど、いつ開催するつもりなんだ?」
「一応、4日後に決まっています」
「では、4日後に会場に向かえばいいですね?」
「はい。何を歌うのかはリーゼさんの自由にしていいので好きなように歌っていいですよ」
決められた歌ではなく、好きに歌っていいことにリーゼはよろこんでいるようだった。
「では、今日のところはこれで。あ、あといま好きなように歌っていいと言いましたが、一応打ち合わせもしておきたいので2日後にまた来ます」
「わかりました」
というわけで、リーゼのコンサートが4日後にきまったのであった。特等席にいけないかな・・・。
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その日の夜、王都にあるゼルゲさんたちとは別の大手アイドル事務所「ドスコインズ」の一室にて、その部屋では女社長のキシリが肥え太った体で部下から報告を受けていた。
「なんだと、ゼルゲの坊やがアイドルの代わりをみつけたのかい!」
「はい、怪物殺しの従魔、マリンセイレーンのリーゼだそうです」
その名前ぐらいはこの業界にいるものは皆知っていた。
ダンジョン都市にて現れた奇跡の歌姫とも呼ばれるモンスターで、いま水面下で各事務所が狙っているところである。
だが、彼女は従魔。つまり、主であるゼロにまずは話を通す必要がある。しかし、怪物殺しの名だけあって近寄りがたいのだ。
中には所詮はモンスターだから、無理やり力尽くでいけるだろうと思う輩もいたが、それはバカな考えである。実は、ゼロの屋敷中には防犯として様々な仕掛けがハクロとカトレアによって施されており、気づかぬ内に侵入者たちは自動的にギルドに送検されていたのであった。引っ越して数日も経たない内にすでに20人ほどであった。
「ちいっ、せっかくあの女どもを金で辞めさせてこまっているゼルゲの坊やにうちから何人か代わりに送って、そのかわりにあの坊やを頂くつもりだったのにパァだ」
実は、今回のことはすべてキシリの策略だった。キシリは気に入った男を見つけると、別の意味で喰べる女で、これまで彼女の手によって策略にはめられ、喰われた男性は数多に登っていた。
今回もゼルゲをターゲットにしていた彼女で、まずは彼がアイドルたちにコンサートを開かせようとしたことを聞き、まず、コンサート会場の貸切をした時を見計らって、アイドルたちを買収していた。そうすれば困った彼が他の事務所に泣きつく可能性があり、こちらが奮発すれば彼は手に入れられると企んでいたのである。
だが、まさか怪物殺しに接触して頼むとは思っていなかった。
「こうなったらどうしてやろうかね」
「でしたら、まずリーゼとやらを歌えないようにして仕舞えば良いかと。その後は当初の予定でいけばいいかと」
「だが、相手は怪物殺しの従魔だ。そう簡単にはいかないと思うよ」
「なにも、直接暴力を使用するわけではありません。風上から毒ガスでも流して仕舞えばいいかと」
「なるほど、ガスでも王都にいかないようにすれば問題ないな。よし、それでいこう」
ちなみに、この世界での毒ガスは毒性が低くせいぜい風邪気味にさせるぐらいのものだったが、それで歌えなくなるはずだからちょうどいいとキシリは思っていた。だが、実はリーゼについての情報で抜けていることがあったのには気がつかなかったのであった。
この世界でもアイドルとかはあるが、テレビがないためそこまで広まっていない。
あと、ポイズンスライムとかがいるのに毒性が低い毒ガスなわけは、その辺の分野がまだ未発達なためである。ただ毒を混ぜれば強力になると考えるようなせかいだからな。なにかしらが打ち消しあって毒性が低くなったのである。
眠り薬なんかがないのもこれが理由。




