7 獲物
シロのキレイになったふわふわな毛並みを、散々もふもふしてからシロを解放してあげた。
あまりにも気持ちよすぎてちょっとやり過ぎだったかもしれないが、シロも喜んでいたようなので問題はない。
「他にも出来ることはあるのか? 別に魔法じゃなくてもいいんだぞ」
すると、またもやシロは2m先をくるくる回り始めた。
そして、回るのをやめたシロは俺の方を向いて ワンッ! と吠えた。
んっ、なんだ? どうした。
すると、見る見る間に大きくなっていくシロの体。
やっぱりなぁ。
フェンリルにしては小さいと思っていたんだよなぁ。――巨大化?
いや、逆だよな。 いつもは小さくなっているのだろう。それにしても、
「これがフェンリルなのかぁ。これは凄いよ。かっこいいなぁ」
俺がそのように呟いているとシロがそのまま目の前までやってきた。
かぁ~、でっかいなぁ。優に4メートルはあるだろうか。後ろで振られている大きな尻尾も、また良き。
顔を寄せてきたので、シロの首に抱きついてワシャワシャしてやった。
もっ、もふもふで最高だぁ。これはもろにモロですよぉ~。
ふっかふかだぁ。――はははははっ!
シロに聞いてみると、大きさは段階的に変えられるようだ。
しかし、大きくなったシロもなかなか精悍だな。かっこいい。
それにもふもふなのだ。そう、もふもふは正義。
だからダメだ! ダメなんだ。
もふもふには人をダメにする魔力が宿っているに違いない。
因みに大きくなってもシロの尻尾は一本でしたわwww。特に深い意味はない。
それから魔法もいろいろと応用が利くみたい。
微風を出して髪を乾かしたり、竈に火種をつくってくれたりと重宝している。
その中であっても、やっぱり一番はコレだよね。浄化魔法。
用をたした後のお尻掃除に最適! まさにウォシュレットいらず。
そんなことに浄化を使うと女神さまに叱られそうだが、やっぱり快適が一番だよね。
トイレットペーパーなんて異世界にはないだろうし。
やる事もなくなってきたので、俺は竈近くの岩に腰掛け、いろいろと考えをめぐらせていた。
すると、さっきまで丸くなっていたシロが急に立ち上がり竈の周りをウロウロしはじめた。
何だかそわそわした感じだ。ときどき目線を遠くに飛ばしている。
どうやら林の方が気になっている様子だ。
「なんだシロ、林の方に行きたいのか?」
するとシロは俺の目を見てコクコクうなずいてくる。可愛い。
ちゃんと言葉が分かっているんだな。
「そうか、暗くなる前には帰るんだぞ」
そう言うと、また俺の目を見てうなずいてきた。
「人が居ても近づいたらダメだぞ。俺が口笛を吹いたらすぐ戻ってくるんだぞ」
うんうん、しっかり聞いているみたいだな。
「それじゃ、行ってよし!」
俺はそう言って林の方を指差した。
ふぅ、 やれやれ。シロの奴すっ飛んで行ったな。そんなに遊びたかったのかな?
さあて、さっき汲んでおいた水を沸かして白湯を作りますかね。
ダッフルバッグからフライパンを取り出すと、水筒から水をうつし竈の上にのせた。
そして再び岩に腰を下ろし空を見上げた。
うん、青空のトーンが落ちてきたな。もうまもなく夕方になるのかな。
あぁ、コーヒーが飲みたいな。
こっちの世界にもコーヒーはあるのだろうか?
どのみち町まで行かないと何もできないよな。
………………
それから、しばらくしてシロが野営場に戻ってきた。
フルサイズになったシロが、口になにかを銜えている。
あぁ、なるほどそう来たか。
俺より先に転生していたシロはこうして獲物を狩って暮らしていたんだろう。
それで何を銜えてきたんだ?
トトトトッと、林の方からシロがこちらに近寄ってくる。
そして、狩ってきた獲物をドサッと俺の前に置くとブンブン尻尾を振っている。
「よくやったなシロ、すごいぞぉ~」
通常のわんこサイズに戻ったシロ。
俺はシロの頭を撫でながら、しばらくの間褒め続けた。
すると満足したのか、シロはまた林の中へ突っ込んでいった。
えっと……、この頭のないでっかいトカゲはどうするんだよ。
生前にキャンプはよくしてきた方だが、解体なんてやったことがないぞ。
しかもトカゲだよ。ホントにどうすんの?
取りあえずは血抜きからだろうか。ラノベによればね。
少々シロを恨めしく思いながらダッフルバッグからナイフを取りだす。
まぁ見事に首がないよな。
鋭利な刃物で一気に切らないとこうはならないだろう。
魔法で倒したのかな? いや違うな。
俺の許可がない限り魔法は使わないと、さっき約束したばかりだしな。
そうすると爪による一撃なのかな?
魔力を纏わせれば刃物のようになるんだとか、ラノベにもでていたような気がするけど。
シロ、凄すぎるだろ。さすがは聖獣様だよな。
いろいろと考えを巡らせながら作業を進めていく。
首は切れているので切り口を下にして尻尾の先を少し落とせば、血抜きもいけるだろう。
たぶんだけど。
知らないものは仕方がないでしょうよ。
トカゲの尻尾を掴んでズルズルとやってきたのは、シロが風魔法で倒した樹木が散らばる場所だ。
竈の近くにはトカゲを吊るすのに適したものが何もなかったのだ。
それに、ここにはシロが樹木を切り倒してくれたおかげで、吊るすのに丁度いい枝がたくさんあるのだ。
まさに怪我の功名!
縛る紐などはないので、複数の枝にトカゲの足を上手く引っ掛ける。
あとは真下に血だまり用の土を掘って、トカゲの尻尾を切る。
すると、たら~りたらりと血が垂れていき血抜きができるという寸法だ。
あとは血が出なくなるまで待ってから内蔵を取り除いて穴を埋めのてしまえば良しっと。
しかし、周りの木を見渡すと改めてシロの魔法の凄さがわかるな。
人間なら5人10人は一撃で葬れるだろう。――また背中がゾゾッとする。
血抜きされていくトカゲを眺めていると、どこからかシロが戻ってきた。
「おうシロ、楽しかったか?」
そう聞く俺に、シロは嬉しそうに尻尾を振りながら ワンッ! と返事をしてくれた。
「こんなでっかいトカゲどうやって倒したんだ?」
いつものわんこサイズに戻っているシロに聞いてみた。
すると、シロはお手をするかのように右前足を上げ、そのままスッと下げた。
その瞬間1m先にあった20cmほどの木の枝がストンと落ちたのだ。
わぁ――お! これってシロにお手をさせたら、手首をなくすヤツが出てくるんじゃないの?
おお――っ、怖すぎる!




