表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/107

95 突入作戦

 アランさんの決意を聞いてから15日。


 迷宮都市への突入作戦(とつにゅうさくせん)において綿密(めんみつ)な打ち合わせは(すで)に終わっている。


 クドーの町より呼び寄せられた総勢(そうぜい)30名にのぼる騎士(きし)精鋭(せいえい)たちは王都アラン邸の前に集結していた。


 いよいよ出陣である。


 本来はクドーの町で行うべきものだろうが、情報漏(じょうほうろう)えいのリスクと転移の関係でこちらで決行される運びとなった。


 従士(じゅうし)輜重部隊(しちょうぶたい)などを入れたら軽く100人を超えているのだ。この者たちが動けば嫌が上でも目立ってしまうだろう。


  ところが王都であれば地脈が走っている為ダンジョンの力が借りられる。


 食糧や資材の輸送、大規模(だいきぼ)な隠ぺい結界など、秘密裏(ひみつり)に行動するには打ってつけというわけだ。


 ………………


 突入作戦における第一段階。


 迷宮都市カイルにある冒険者ギルドへの突入だ。


 ここでは副ギルド長のヤゴチェをはじめ、経理担当(けいりたんとう)のヘマー、受付嬢のマリヤン、この3名を拘束(こうそく)し連行する。


 (越後屋にヤリマン? ……ではないな、間違えないようにしないと)


 そして順次(じゅんじ)取り調べを行っていく手はずだ。


 連行(れんこう)する場所は迷宮前広場(めいきゅうまえひろば)の地下にある秘密基地。


 これはカイル (ダンジョン) に指示を出しており、すでに完成している。


 中は(ろう)屋が20、取調室が5、宿泊部屋 (ベッド2・シャワー・トイレ完備) が50室。


 他には多目的リビングスペースが3・大食堂・厨房(ちゅうぼう)・トイレ・そして大浴場(だいよくじょう)だ。


 お風呂はもちろん温泉を引き入れている。


 排気口(はいきこう)もしっかり巡らせているし、地熱暖房(ちねつだんぼう)だからクリーンで温かいのだ。


 また、この秘密基地への出入りは転送陣を利用している為、防犯面に()いても万全である。


 ………………


 突入作戦における第二段階。


 代官邸(だいかんてい)への強制捜査(きょうせいそうさ)だ。


 屋敷に乗りこみ、法衣子爵(ほういししゃく)ミヤーテ・ベスを捕縛(ほばく)家宅捜索(かたくそうさく)を行い証拠品などを押収(おうしゅう)する。


 (すべて闇になんかはさせないぞ!)


 捕縛と強制捜査の命令書は国王様から預かっているので、こちらはその命令を遂行(すいこう)していくだけだ。


 まあ、ここ最近のゴタゴタで抵抗する力は残っているかどうか……。


 (ミスリル紛失の件だね)


 一人も取り逃がさないよう慎重に行動する必要がある。






 さあ、いよいよ決着をつける時がきた。


 まずは先発隊として出陣する者が50名。


 篝火(かがりび)()かれた王都アラン邸の広場にて、今か今かと待機(たいき)している。


 さらに更迭(こうてつ)されるギルド長、捕縛される副ギルド長の代わりに冒険者ギルド本部(・・・・・・・・)より派遣(はけん)される職員5名が同行する。


 こちらは冒険者ギルドの通常業務が(とどこお)らないようにするためだな。


 ――夜明けと同時に作戦開始である。


 転移する場所はダンジョン・カイルの迷宮前広場。目標である冒険者ギルドは目と鼻の先である。


 ()く息も白くなる中、アラン邸の広場全体に緊張が走る。


 今日のアラン(きょう)はプレートアーマー姿である。ヘルムは付けていない。


 (イケメンでかっこいいので今回はアラン卿と呼ぶことにします)


 俺はいつもの冒険者スタイル。


 シロは赤い首輪にツーハイム家の紋章が入ったミスリル製のタグを付けている。


 (シロもかっこいいぞ!)


 夜露が体についたのか、ブルブルをしている。


 ……そして夜が明ける。


 「行くぞ――――っ!」


 アラン卿の右手に持った剣が天を突く。


 ――出陣の合図である。


 「「「「おお――――っ!」」」」


 それに呼応(こおう)するように、集まっていた騎士達も右拳を突きあげる。


 そして次々と転移していった。


 迷宮前広場へ着いた先発隊の騎士たちは、(あわ)てることもなく素早く整列していく。


 「進め――――っ!」


 振り上げた剣を前に突き出しながら号令をかけるアラン卿。


 白馬に乗っていないのが残念ではあるが、ここは町中、冒険者ギルドは本当に目の前なのだ。


 ――ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ。


 皆一丸(みないちがん)となって冒険者ギルドへ向かっていった。






 冒険者ギルドの前に到着するとアラン卿は素早く指示を出しはじめる。


 入口を封鎖(ふうさ)し、3名の騎士が裏口へと回って配置につく。


 アラン卿と5名の騎士、それに俺とシロがギルドの中へと踏み込んだ。


 何事かと色めき立つギルド内。


 「静まれ――――っ! 静まらんか――――っ!」


 騒然(そうぜん)となったギルド内にアラン卿側近(そっきん)の騎士が大声を張りあげる。


 しばらくするとギルド内は水を打ったように静まり返った。


 そこに一拍(いっぱく)置いてから、


 「こちらはアラン大公殿下(たいこうでんか)であらせられる。王命により次の者を捕縛(ほばく)しに参った。読み上げられた者は(すみ)やかに前へ出ませいっ!」


 ………………


 名を呼ばれた3人はこれといった抵抗も見せずにお縄についた。


 のちに、騒ぎを聞きつけ2階から下りてきたギルドマスターのバロンはギルド本部の人間に(つか)まって、これからの事についていろいろと説明を受けているようだ。


 アラン卿とその騎士団は捕縛した3人を連行し速やかにダンジョン・カイルへ引き上げていく。


 秘密基地用の転移台座(てんいだいざ)にアラン卿をはじめとした関係者を登録していく。


 (そういえば、お腹すいたなぁ)


 お昼前の中途半端な時間だが、朝食をとっている暇もなかったので腹ペコだ。


 秘密基地内はまだワタワタとしているし、外で食べてきてもいいのだが……。


 ――皆も食べてないよね。


 仕方がないので 干し肉・白パン・薄めのホットワインをそれぞれ騎士や関係者に配ってまわった。


 干し肉と言ってもデレク (ダンジョン) に作らせた特製(とくせい)半生(はんなま)タイプ (塩分(ひか)えめ) だ。胡椒(こしょう)をまぶしてから渡していく。


 「「「「これは(うま)い!」」」」


 騎士団の皆さんからも大絶賛(だいぜっさん)であった。


 輜重部隊(しちょうぶたい)も到着しているし、夕食からは連れてきているコック達が腕を振るうことだろう。


 まあ、ここは迷宮都市である。


 ダンジョン前には沢山の食堂や屋台が立ち並んでいるから、交代で食べに行くのも有りだろう。






 捕縛した3人への尋問はすぐに開始された。


 そして意外だったのが、取り調べに()いては3人とも素直に応じているのだ。


 これなら手荒(てあら)な事はしなくて済みそうである。


 取り調べが進むにつれて、二重帳簿(にじゅうちょうぼ)虚偽(きょぎ)の申告・ミスリル鉱山の不法占拠(ふほうせんきょ)・上層部への(うった)えの揉み消(もみけ)し・その訴えた者を合法的に処分。


 処分とはダンジョン内で行方不明になったということだな。


 とまぁ出るは出るはで(なか)(あき)れてしまう程だ。


 宵闇の赤月(よいやみのあかつき)の件も代官であるミヤーテ・ベスの指示によるものであった。


 幹部を一人ひとり呼び出してはダンジョン内で処分していたということだ。


 そして肝心(かんじん)なエレナ殺害(さつがい)についてなのだが……。


 経理担当であったヘマーと受付嬢のヤリマ……いや、マリヤンは全く知らないという。


 副ギルド長のヤゴチェでさえ当時は下っ端ギルド員で経緯(いきさつ)などは分からないということだった。


 もう、3年も前の事なのだ。


 当時の関係者は(ほとん)ど始末されているしな。


 ただ、実行犯は判明している。当時大公家(たいこうけ)に勤めていたコックの一人だったようだ。


 こちらも、後にダンジョンで行方不明になっているらしい。


 ………………

 …………

 ……


 この3日間で冒険者ギルドにおける聞き取り、関係者への尋問は大方(おおかた)終わった。


 それぞれに家宅捜索(かたくそうさく)も行われたのだが、


 どの家も広く調度品(ちょうどひん)にしても高級品だらけ、とても安月給(やすげっきゅう)の一般ギルド員が住めるような物件ではなかったと、捜査した騎士たちが(あき)れ顔で話していた。


 中にあった高級な調度品(ちょうどひん)、現金、そしてギルド預金などは全て没収(ぼっしゅう)となった。


 処分については、


 副ギルド長のヤゴチェは全ての罪状(ざいじょう)を明らかにしたのち、公開処刑(しょけい)で首を()ねられるだろう。


 残り2名の手下についてはA級犯罪奴隷(はんざいどれい)としてオーレン山脈の鉱山(こうざん)へ送られることになった。






 そして、いよいよ本丸(ほんまる)への突入である。


 カイル (ダンジョン) からの報告を聞く限り、”大人しく首を差し出す” という事はないようである。


 この3日間における奴らの動きは全て把握(はあく)している。


 逃げ出すこともなく代官屋敷(だいかんやしき)居座(いすわ)り続けている。


 あくまで徹底抗戦(てっていこうせん)の構えだ。


 ミヤーテ・ベス家に仕える騎士15名をはじめ、子飼(こが)いのゴロツキに冒険者崩れなど、集めも集めたり90人程を代官屋敷に集結させている。


 何を考えているのだろう?


 王国に逆らってもどうにもならないと思うのだが……。


 ――まぁいい。


 向うから集まってくれるのだ。こちらとしては探す手間がはぶけて大助かりだ。


 代官屋敷内の全員にマーカーを付ける。一人として逃がしはしない。


 それに一昨日(おととい)より迷宮都市の各門では厳しい検問(けんもん)が行われている。


 それでも外に出ようとする者は直接牢屋(ろうや)へ転送されるようにしている。


 これらの状況を踏まえどうしていくか? 俺とアラン卿は協議(きょうぎ)を重ねていた。


 強行突破(きょうこうとっぱ)でも、魔法の一斉掃射(いっせいそうしゃ)でも、はたまた屋敷に居る人間すべてをダンジョンへ引き込んで闇に(ほうむ)る事だってできる。


 こちらには俺とシロがついているし、この町ではダンジョンの力だって及ぶのだ。


 まさに、やりたい放題できる状況なのだ。


 ――それでも(・・・・)


 アラン卿にしてみれば、最後は自分でカタをつけたいところだろう。


 また、派手にやってしまって町に被害を出したり、関係のない人々にいらぬ恐怖心を与えてしまうのも考えものである。


 ………………


 「急がなければですが……」


 そう前置きした上で、俺はある作戦を提案した。


 その作戦とはズバリ!【兵糧攻(ひょうろうぜ)め】である。


 はい、そこっ!


 はぁ――――っ! とか、地味だ――――っ! とか言わない!


 昔から籠城(ろうじょう)に対する戦いで使い古されている戦法だけど、


 その効果は絶大なんだよ。


 掛かるのは時間だけで、味方には何の被害もでないのだから。(極端な表現になっています)


 「そのような事が本当に出来るものなのか?」


 「はい、私達なら簡単に実行できます。急がないとはいっても、時間の方もそれほど掛からないと思いますよ」


 聞かれた俺は大きく頷きながら返事をした。


 すると、いくつかの確認をおこなったのち、比較的スムーズにこの作戦が採用されたのである。


 作戦会議を終えた俺たちは、さっそく準備に取り掛かることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on挿絵(By みてみん)
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押して。押して~!
小説家になろう 勝手にランキング
シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
作:管澤捻 さま (リンク有)
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ