98 座敷わらしとロックチョウの卵 4
ゴロンと岩鳥の卵を白熊の前脚で転がしていくのは案外簡単だった。
実際には転がしているというよりは『片脚ですくい上げて放り投げる』を繰り返しをしている……。
岩鳥の巣からできるだけ離れるために、とりあえず平らな場所をひたすらその方法で進んでいた。
「これで割れにゃいんだから、童の幸運ってすごいですよねぇ。あ、右側の方が進みやすいですよ」
ネコに前方を確認してもらいながら卵を転がしているので、今のところ障害物に当たらずに進むことができている。
そうこうしているうちに、なんとか木々が鬱蒼と茂っている場所まで移動してきたので第二段階もクリアだ。
あとはラトレルさんが決めた合流地点を目指すだけ。
いずれ壁のようになっている岩場の崖を登らなくてはいけないが、卵の重さを考えたら私ひとりではどうしても無謀な話だった。
だからラトレルさんと十也は岩鳥の縄張りの外側を移動してもらい、この渓谷の端の方で待機している。
巣へは最短距離で移動したが帰りは同じ道で帰ることはできなかった。
かなり大回りになったとしも危険をできるだけ排除しながら進める道を選択したつもりだ。
木立の間は転がして運ぶことが出来なかったから仕方なく白熊のまま両手に抱えて歩き出した。
何度も転びそうになる。いや転んだ。
やっぱり無理だ。
仕方がないのでそのへんを見渡して木に巻き付いている丁度よさげな蔓をむしり取った。
それから一度人間に変幻してラトレルさんに教えてもらったやり方で蔓を卵に縛り付け、完成してから、もう一度熊に戻る。
今度は黒い方が保護色になるのでシロクマではなくヒグマだ。
そして持ち手の部分を口に銜えて山の中をできる限り速足で進んでいった。
もしここで他の冒険者に出会ってしまったら攻撃された上に卵を盗られる可能性がある。ネコに見張りを頼みながら慎重かつ最速で合流地点を目指した。
「このへんだったらもう大丈夫ですよねぇ。先に行ってラトレルさんたちを呼んできます」
四時間ほど歩いてからネコがそう言って枝の上を走り去っていった。私ひとりでは道に迷いそうなので、卵を落ち葉で隠しおいて人間に戻りその場で待機する。
待つこと一時間。
「おーい、オラク~」
「お楽いる~」
「このへんだと思うんですけどねぇ」
ラトレルさんたちが私を呼ぶ声がしたので立ち上がって手を振った。
「ここだ!」
誰にも邪魔されず、問題ないまま十也たちと合流することができて一安心。
「うわー、大きな卵」
「俺もこんなに近くで見るの初めてだよ」
「結構重いからな。これから町まで運ぶのが一番大変だぞ」
ここまでくればもう大丈夫だ。
あとは三人で運べばいい。と言っても結局はラトレルさんがほぼひとり背負子に乗せて運んでいる。
ラトレルさんが疲れたら私がヒグマになってまた運べばいいが、この先は冒険者も多くなる。魔物に間違えられないかが問題だが。
順調に進んでいったが、渓谷から崖を登る時は思った以上に大変だった。
卵に長いロープを括り付けて三人で少しずつ引っ張り上げながら上を目指し、あと少しで上まで到着だという時、崖の上を偵察していたネコから警告が入る。
「紫狼がいます」
「卵を運んでいたら無防備過ぎて危ないな。ここで少し様子をみるか」
「いや、私が行って蹴散らしてくる」
「オラクひとりで大丈夫か」
「私ひとりで十分だ」
「それでも気をつけてね」
「ああ」
てきとうに暴れればいいか。と気楽な気持ちで紫狼と対峙したのだが……。




