95 座敷わらしとロックチョウの卵 1
ラトレルさんが仲間になったおかげでテンゴウ山の樹海もかなり奥まで入れるようになった。
私たちが留守の間はヒナをエルシーに預けている。
基本はラトレルさんが先行して十也、私の順で山の中を歩いている。ネコは木の上で枝を渡りながら私たちの近くを一緒に進んでいた。
とにかく狼の群れだけは気をつけていて、万が一出くわした場合はラトレルさんが十也を木の上に避難させ、私が蹴散らすことになっている。
私の能力はある程度ラトレルさんには話してある。実際にやって見せた時は目玉が落ちてしまうかと思うほど目を見開いて驚いていた。
姿が消えたように見せることは高位の魔法使いでもできるが、指を切り落としても痛がらず、しかもすぐに再生する姿を見せた時の反応はすごかった。
一瞬、魂がどこかへ行っていたのではないだろうか。そう言えばヌマガニ漁のときもそんなことがあったな。
魔法が存在するこの世界でも私の能力は規格外すぎるらしい。
ちなみに隣でそれを見ていた十也も驚愕した顔でこちらを見ていた。私の能力のことは知っているだろうが何を今更驚いている? と思っていたら、あとで、突然指を切り落とすなんてことをやったらだめだと、またお説教されてしまった。
「オラクたちの世界の人は本当にすごいな」
ラトレルさんはとても感心していた。
「違いますからー!!」
十也がそれを全力で否定する。
狙いは大型で単独の魔物だ。鹿や熊が望ましいがなかなか出会うことができなかった。
今いる場所では大型のイタチをよく見かける。大型犬ほどの大きさなので、それなりに経験値もつくだろうし、一頭、銀貨五枚でとてもいい獲物だ。
「左、斜め前の茂みの先に大魔鼬発見、色は緑多めの茶色です。その少し先の木の上に猿が一匹います」
ネコが上から獲物を発見すると知らせてくれるのでかなり効率がいい。
「了解」
獲物の姿を捉えたら、まずラトレルさんが投擲して動きを止める。
その後十也が何発かスリングショットで弾を打ち込み、動きが鈍ったところに近づき私が止めをさす。
本当は十也が止めをさした方がいいとは思うのだがやはり魔物に向かって直接攻撃することは出来なかったので、獲物が反撃できないくらい弱って不運魔法が使える場合のみ十也に最後を任せていた。
木の上の猿は十也がスリングショットで狙ってみたが動きが早く逃げられてしまう。
実はラトレルさんにはすでにネコを紹介してある。しかし私の時とは違いそれほど驚かれなかった。
この世界には使役獣もいるし、獣人もいるのでネコが言葉を話してもそれほどおかしいことではないらしい。
ただ、ふれることが出来ないことだけは信じられなかったようで、何度もネコにさわろうとしていた。
今日は大魔鼬が四頭と山鼠が二匹、鳥類十二羽だ。
大魔鼬は生息地に合わせて体毛の色が違う。山にいるものはたいていが茶色か緑色の単色か、その二色が混ざった色合いが多い。
岩場ではそれに灰色も混ざるらいし。こいつの毛皮はコートの素材になるのでレアな色の大魔鼬だと報酬金が跳ね上がる。
テンゴウ山の山頂付近には純白の大魔鼬が生息しており、捕獲できればこいつもオークションになるらしい。
アーサーの依頼品はそれではないかと思っている。
小物はいつも通り十也が帰り道に仕留めたものだ。最近はだいたい同じような狩りをしているのだが、これではラトレルさんが一人で狩猟していた時とあまり変わらない。
ラトレルさんはひとりの時より稼いでいるとは言うが、借金を減らせなければパーティを組んだことがラトレルさんのメリットにならない。
だから私はずっとひとりで構想してことを、二人に提案することにしてみた。
「岩鳥の卵?」
「そうだ、場所はわかっているし、何ヶ所か回ってみて卵があったらとってこようと思う」
「岩鳥って風猿の時の大鷲でしょ。簡単に猿を捕まえちゃうほどの魔物なんて大丈夫なの」
「あれは普段は攻撃してきたりはしないんだけど、卵やヒナを守る時は狂暴になるらしいからな」
「方法は考えているからたぶん問題はない。ラトレルさんと十也には安全な場所から卵の運搬だけを手伝ってもらいたい」
「オラクが試してみたいっていうなら協力するけど無理はするなよ」
「私ひとりでは巣までたどりつけないからな、山に詳しいラトレルさんがそう言ってくれると助かる」
「じゃあ僕もできることは手伝うよ」
「我はいつもの通りまわりの警戒をしますねぇ」
とりあえずみんなに賛成してもらったので岩鳥の卵をとりに行くことが決まった。




