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94 座敷わらし、正体をばらす

「パーティを組むとなれば、僕たちのことも黙っているわけにはいかないよね」


「そうだな」


 今まで以上に一緒に行動するとなれば、教えておいた方が賢明だろう。


 今では十也はもちろん、私でさえ自分たちのことを告げても大丈夫だと思えるほど、ラトレルさんのことは信頼していた。


「信じるかはラトレルさん次第だが、私たちは突然こことは違う世界から転移してきた者だ。この国の人間でもなければこの世界の住人でもない。元の世界へ帰るために、たぶん関係があるであろうアーサーに会いに行こうとしているのだ」


「えっと、ちょっとまって、すごく混乱しているから……オラクは貴族で悪魔祓いじゃないんだね」


「悪魔祓い?」

「なんでそう思ったんですか」


「不思議な魔法を使っていたし、孤児院で悪魔祓いにこだわっていたし、生き物を使役していて、髪の毛は術の媒体に必要だから切れないのかと」


「勘違いだが、ラトレルさんが何を見ても驚かなかったのはそれが理由か」


「いやあ、いつも驚いていたさ。でもまさか違う世界から来たなんて思わないだろう」

「ですよね。誰も信じませんよね。でも本当ですよ」

「二人が嘘を言ってるなんて思わないけどな……」


 いきなり「異世界人です」って告白されて、「はいそうですか」なんて簡単には受け入れられないのもわかる。


 実際、元の世界でだって、実体化している私が座敷わらしだと言ったところで、誰も信じてくれないないだろう。


「無理に信じようと思わなくてもいいぞ、ただ私たちの行動がおかしく思っても、許容してもらえばいいだけだ。あとはそれを上手く誤魔化してもらえれば助かるな」


「私たちじゃないよー。僕は普通だもん。でも本当にこの世界のことは知らないからラトレルさんがフォローしてくれたらすごくありがたいです」


「うーん、わかった。とりあえず俺は今までと変わらずにいて、何かあったら手助けすればいいんだね。なんか二人の話聞いてるとまだまだ驚くことがありそうだよ」


「ぴぴぴ」 


 そんな話をしているうちにヒナが起きだして箱から出てきた。


「あれ、もうそんな時間?」


 話に夢中で気がつかなかったが、部屋にはいつの間にか朝日がさしこんでいた。


 徹夜だったので午後遅くまで寝てから、夕方三人でパーティを結成するためにセンターを訪れる。


 なぜわざわざパーティを組むのか? それはそれなりのメリットがあるからだ。


 まずはパーティカードを製作する必要がある。

 このカードがあればセンターにパーティの資金を預けることができて、パーティカードさえあればどこのセンターでも自由にお金を引き出すことができるのだ。


 この銀行みたいな制度は個人では使えない。何故なら、この制度ができた当初、個人も預け入れができるようになっていたようだが、本人が魔力を注いでオープン状態の冒険者カードでしか引き出せないため、冒険者が命を落とした際に、残っていた預金を引き出すことが出来なかった。


 そのため、冒険者の家族から苦情が相次いだからだ。

 大金を稼いでいる冒険者ほど防犯上の理由でセンターに預けていた者が多く、より非難が殺到したらしい。


 本人の魔力がなければ引き出せない安全仕様が逆に足を引っ張ることになってしまった。


 だからシングルで冒険者をしている者はこの制度を活用するためにわざわざ家族や信用のおける知り合いとパーティ登録をしているそうだ。


 次に報酬の取り分の契約だ。

 これで事前に登録した配分でパーティメンバーに報酬が支払われる。


 パーティの資金として五割、残りを均等にメンバーで分けることが多いらしいが、パーティ内で力に差がある場合はランク別に三割、二割、一割など変えていることもあるそうだ。


 私たちは三人で均等に分けて、割り切れない分だけパーティカードに入れることにした。


 報酬の取り分を登録をする際に、十也は半人前なので取り過ぎだともめたのだが、結局そこはラトレルさんが譲れないと三分の二を受け取ることなった。


 それでもこれからはラトレルさんに報酬を受け取らせる手間が省けるので、私にとっては願ったりの制度だ。


 取り分はパーティの中で好きなように決められるが、あまりにも偏った配分の場合は登録が認められない。


 例えばリーダーだけが独り占めする様なことはできないようになっている。パーティの中で発言力が弱い者も最低限の報酬は受け取れるようにしてあるようだ。


 商人の護衛のようなパーティでしか受けられない依頼がわりと高報酬だったりするし、パーティ推奨の魔物も個人では受理されない。


 これは間違いなく依頼を完了させるためだからしかたがないことだ。


 余談だが、私たちは先に獲物を捕獲してから持ち込んで報酬を得ているが、実は掲示板に載っている魔物であれば依頼を受理してもらってからの方が報酬は一割ほどよかったりもする。


 賢く稼ぐには手順をきちんとふんでからの方がいいのだ。


 デメリットとしてはラトレルさんが一人で魔物を持ち込んだとしても私たちに配分されてしまうことと、いままでのように素材受取所で清算してもらえないので、いちいち窓口に手続きに行く必要があることだ。


 パーティカードと私たちの冒険者カードを専用の魔道具に差し込んでから職員が登録作業をして、またあっという間に完了。


 三人にパーティカードが一枚づつ担当眼鏡から渡された。


 新しくメンバーが増えるときには毎回すべてのパーティーカードをセンターで登録変更する必要するがあるのだが、抜ける時には個人でセンターに削除要請をするだけでいい。


 パーティからの除名も代表のパーティカードだけでできるそうだ。


 ラトレルさんの戦力が加わったことにより、高報酬、高レベルの魔物を求めて山奥まで行くことができるようになった。


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