93 座敷わらし、ラトレルさんを仲間にする
「決めた。それならその借金を全部返済するために、私たちがこの町にいる間はラトレルさんには本当に仲間になってもらうぞ」
「え? そうじゃなくて、俺は仲間にはなれないって話をしたつもりなんだけど」
「そうだな、ラトレルさんは実はかなり自分勝手だとわかった。なぜ治療師に迷惑をかけているにも関わらず他人を助けようとするんだ。やっていることがおかしくないか」
「お楽―、何言いだすんだよ」
「本当に誰かを救いたいなら自分が借金まみれはおかしいだろうと言っている。ランクアップしたい私たちと借金を返さなければいけないラトレルさんが手を組むことは両者にとってプラスだろ」
「そうかもしれないけど、言葉がストレートすぎるよ」
「ラトレルさんに断られたら、私たちは二人でどうにかしなくてはいけないんだ。言葉を選んでいる余裕はない」
ラトレルさんは珍しく腕を組みとても厳しい顔つきで何かを考えているようだ。
誰もが無言のまま、何かを考えながらも言葉にできず静まり返っていた。十分以上はたったと思われるころラトレルさんがやっと口を開いた。
「オラクが言っていることは正しいよ。治療師のバークリーさんに迷惑をかけているのにずっと気づかないふりをしてきたことも認める。俺は同世代や年下にはいい顔したいくせに、バークリーさんはお金に困ってないから返済を待ってくれるって甘えているんだよ。本当は見栄っ張りで腹の中真っ黒かもしれないな」
「それは違うぞ。ラトレルさんの誰かのために何かしたい気持ちは本物だからな。人間の中では珍しいほど心の中がきれいだ。そうでなければ私は仲間に誘ったりはしない」
ラトレルさんは人を恨んだり、嫉妬したり、蔑んだり、とにかくマイナスの感情を持つことがたぶんほとんどなかったんだと思う。
幸運が流れて来た時に感じた感覚的なものだから、はっきりとはわからないが間違ってはいないと思う。
「そうですよ。ラトレルさんは誰に聞いてもいい人ですよ。わかっているから治療院の先生だって、ラトレルさんがボクたちの世話をやいてること、無理やりには止めないじゃないですか。借金のほとんどが人のためだったんですよね」
再び考え込んでいたラトレルさんはしばらくして先ほどと違い私たちに真剣でも優しさがこもった目を向けた。
「確かに俺は借金を早く返済するべきだと思う。それには一人では限界があることも承知していた。君たちが言ってくれるほどいい人間ではないと思うけど、君たちの力にもなりたいとは本当に思っているんだよ。もし俺が断ったら、危なくても二人で魔物狩りに行きそうで心配だ。こんな俺で君たちの手助けができるのであれば仲間になってもいいだろうか」
「本当ですか、ボク嬉しいです」
「私もラトレルさんが一緒ならいろいろ安心だ」
「でも無理はしないでほしい。君たちには傷ついて欲しくないんだ」
「はい」
「ああ」
そうして私たちはお互いの利益のために三人で臨時のパーティを結成することになった。
ラトレルさんが承知してくれたのは――たぶん私たちが二人きりで危険なことをしないようにだと思う。




