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89 座敷わらし、Bランクの冒険者のうわさを聞く

 最近、ヒナは少しジャンプができるようになって木箱から飛び出しては私や十也の肩や頭の上に乗ってくる。


 昼間出かける時は部屋に置いて行くので寂しいのかもしれない。

 糞はちゃんと木箱の中の一角にしているので出てきてもそのまま好きにさせていた。


 もうすぐ就寝時間だからそのうち箱の中のタオルの上に戻るだろう。


 それにしても、ますます羽毛の灰色だった部分の色が青くなってきたな。


「ヒナちゃんは幸せの青い鳥だもんね」


 などと十也は言っているが案外間違いではないかもしれない。


 そんな馬鹿話をしていると、ネコが窓から帰って来た。



「気ににゃる噂を聞いたんです。十代でBランクになった冒険者の話です。名前がアーサー、確か主人公もそんにゃ名前(にゃまえ)でしたよね。いま近くの町にいるそうですよ」


「そうなの? 主人公の本当の名前はアーサニクスなんだけど、本の題名が『冒険者アーサーと天上人の末裔』だったと思うから主人公の可能性はめちゃくちゃ高いよ」


「真相を確かめるためにも近くにいるなら絶対会いに行くべきだな」


 それにしても、もしそうだとすればすでにBランクか、――この国で英雄と呼ばれる人間はどれほどでAランクやSランクに到達するんだろう。


 あまり早いペースだと私たちがついて行けない可能性があるし、このままだとまずいかもしれない。




 私たちは早速Bランク冒険者の情報を担当眼鏡に聞きに行くことした。


「個人情報になりますのでお教えできません。ですので私が知っている情報ではなく、噂で流れている程度になりますがよろしいですか」


「それでもかまわないから教えてくれ」


 ()()()()()()()()()()によると、そのBランク冒険者は直接貴族からある魔物の毛皮の納入依頼を受けていて、それが捕獲できるまでは隣町を拠点にしているらしい。


 その生息地が樹海をこえたテンゴウ山の五合目より先になるので、現在はテンゴウ山の山中にいて、隣町に行ったとしても会うことが出来ないようだ。


 担当眼鏡の読みでは、その魔物の出没時期は決まっていて季節的に今はまだ少し早いそうなので、うまい具合に標的に出会えたとしても最短で一ヶ月ほどは掛かりそうだという。


 とりあえずアーサーが依頼をこなして移動する前に、私たちは隣のセンターで張っておく必要がある。

 その後そのまま尾行をするとしたらやはり十也の防御力アップが急務だった。



「どうしようか」

「隣町に移らないとな。それと主人公がBランクになっていると言うなら、私たちはこのままではまずい。もっと強くなる必要があるぞ」


 今のままでは時間が全然足りない。どうするべきか。


 二人で話し合った結果――私たちはラトレルさんの部屋のドアをノックした。


 すぐにシャツと短パン姿のラトレルさんが扉を開けて出て来た。

 いまは夜も遅い時間だ。もう寝ようとしていたのかもしれない。


 それでも余裕がなくなった私たちは一秒でも早く動く必要があった。


「こんな時間にすみません。ラトレルさんにお願いがあってきました。今いいですか」


 真剣な表情の私たちを見て、ラトレルさんもただ事ではないと察したらしい。


「それで? どうしたんだい?」

「ここではちょっと、僕たちの部屋に来てもらえませんか」


「じゃあ、着替えてからすぐに行くよ」

「では、待っている」


 この時私たちは、ラトレルさんとの話し合いが朝まで続くことになるとは思ってもみなかった。 

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