87 座敷わらし、大騒ぎになっていたことを知る
「ちょと君たち来てくれないか」
「冒険者カード見せて」
冒険者カードの入ったウエストポーチがなくなっていたことに、今ごろ気がついた。自分の身体をいくらまさぐってみても、見つかるわけがない。
「ない」
「うーん、どう思う。念のためセンターにも連絡しておいた方がいいよな」
「思い出した、この子、一昨日の朝、飛び出して行った子だ。冒険者カードはここにあるぞ。落としていったので拾っておいた」
三日前、ここを通ったときに子どもに捕まれたので一瞬妖精化した。その時だろうか。
私はウエストポーチと一緒に渡された冒険者カードに向かって力をこめる。
「やっぱり君のだったな。Ðランクか」
「三日も一人で狩りに行っていて、無事に戻って来たなら問題ないんじゃないか?」
「その子ラトレルが面倒見ている子どもだぞ、ほら噂になってる」
「ああ、だったら大丈夫だな。もともと許可が出ているし」
「――と言うことで、はい、行ってもいいぞ」
こんなところで大騒ぎしたせいで門番に不審がられ足止めされてしまった。
噂って言うのは貴族ってやつだろ。問題はないらしいのでやっと帰ることができる。精神的に疲れたので早くベッドでゴロゴロしたい。
「はて?」
冒険者カードを返してもらったので、さっそく静水館に帰えろうと思ったら、十也もネコもまた東門の外へ出ていってしまった。
「ラトレルさんがテンゴウ山にお楽を探しに行っているから迎えに行くよ」
「――みんなに迷惑かけていたようだな」
「本当にそうだよ。おとといの夜はさ、ネコちゃんがお楽はたぶん妖精体で行動しているから探しに行ってもネコちゃん以外には見えないって教えてくれて、ラトレルさんたちには内緒にしていたんだよ」
「朝になっても帰って来にゃかったけど、我だってテンゴウ山ほどの広さでは気配を追うことができませんし、待つしかにゃいって思っていたんです」
たしかに私の気配なんて、探す範囲は西町程度の広さが限界だろう。
「お楽が夕飯も朝食も食堂に行かなかったからベルナさんが気にしちゃって、二日目の夕飯時に質問攻めにあったんだよ。昨日も結局、夜も帰って来なかったからね。それで仕方なく、テンゴウ山にゴブリンの巣を見に行ったまま帰って来ないって話したらラトレルさんが飛び出して行っちゃって、ラトレルさんも昨日からずっとテンゴウ山に入ったままなんだ」
本当にすみません……。
「町の中で気配がしたから、最初勘違いかにゃって思っていたら本当にいるからびっくりしましたよぅ」
「まあ、無事でよかったけどさ」
「ぴぴぴっ」
「ヒナちゃんだって産まれたばかりなのにずっと心配してたんだから。箱の中でずっとグルグル歩き回ってたよ」
十也から木箱を受け取って中を覗いてみれば、羽を腰に当てて『そうだぞ』って感じでヒナが見上げていた。その後、私の顔を見て嬉しそうに身体と羽を膨らませてパタパタした。
「すまなかったな。――お? 少し大きくなったか」
「ヒナちゃん灰色のところが青っぽくなってきたんだよね」
本当に頭の天辺は濃い灰色だったのに青み掛かっている。
「それでヒナは何鳥なんだ」
「たぶん魔小雀って種類みたいなんだけど普通は頭は黒いんだって」
「童がいにゃいあいだに我もひなと仲良くなりましたよ。童のおかげで連帯感がうまれました」
「ぴぴ!」
やはりみんなと一緒にいると和むな。私ももう独りぼっちはこりごりだから、今後は単独行動は控えようと思う。
どこを探しているかわからないので、ラトレルさんがいつも山に入る時に使っている街道の入り口で待つことにした。
「自業自得だけどお楽も大変だったんだね」
「にゃんで魔鹿を追いかけて行っちゃたんですかねぇ」
「ぴぴぴ?」
あの時はやっと会えた魔鹿しか目に入ってなかったんだよな。
山に入るにはやはりネコが必用だ。道案内はもちろんだが、そばにいて突っ込んでくれていたらこんなことにはならなかった気がする。
「ゴブリンで幸運が溜まるのもびっくりだよね」
「だから、今度からテンゴウ山に入ったときは、ゴブリンの巣を回ろうかと思ってる。もちろん、もうひとりでは行かないけどな」
「あ、ラトレルさんですよ」
木の上で山の中を監視していたネコが叫んだ。
急いでラトレルさんの方へ十也と一緒に走って行って合流するとラトレルさんは無事でよかったとその場に座り込んでしまった。
もう夕方近くになるから丸一日ちかく山で捜索してくれていたことになる。
私はラトレルさんにも土下座して謝った。ラトレルさんがそれを見て驚いていたので、
「これはお楽の最上級の謝り方です」
と十也が言ったら、ラトレルさんは気にしなくていいよと笑いながら言った。
ラトレルさんは洞窟のゴブリンの巣まで行ってきたらしい。結局そこでも私が見つからず戻ってきたそうだ。
何も持たずに飛び出してきたラトレルさんは、今度は山に籠る装備をして再び山に入るつもりで一旦引き上げてきたところ、私が無事だったことがわかり気が抜けたみたいだ。
もう少し私の帰りが遅くて行き違いになっていたら、ラトレルさんにはもっと迷惑を掛けるところだった。
みんなで静水館に戻ったら、今度は静水館の前にベルナさんとエルシーが一緒にいて私たちに気がつき走ってきた。
「みんな無事でよかった~」
「よかった……」
「心配かけて、すまん「すみません「ごめん」」」
とみんなで謝った。
なんだかんだあったが、無事に静水館へと帰って来た。ここは本当に温かい場所だと思った。




