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82 座敷わらし、ゴブリンを観察する

 実はゴブリンの巣の近くは危険が多い。ゴブリンを餌にしている肉食獣がどこに潜んでいるかわからないからだ。


 私は妖精体で歩いているので、いつかの影狼(カゲロウ)みたいに突然襲い掛かられる心配はない。


 安心して進み続け正午をすぎたころ、私の行く先でギャーとかガーとか何かの悲鳴じみた声が聞こえてきた。


 急いで向かってみると、そこには小さめな魔鹿(マジカ)と十数匹のゴブリンがいた。どうやらゴブリンが狩りをしている最中だったらしい。


 魔鹿はサイズから言えばこの前の半分だから子鹿だろう。小さいとはいえ、Cランクパーティ推奨の魔鹿をゴブリンが相手をするには荷が重すぎると思う。


 私が横取りしてもいいだろうか?


 とりあえずゴブリンの狩りを見学することにした。


「おお、よく見えるな。それに――やはりそうだったか……」


 妖精体をいいことに魔鹿の背に乗り、上からゴブリンたちを観察していた。まさに高見の見物だ。


 ゴブリンは数が多いだけで、連携がまったくとれていない。案の定、棍棒を振り上げながら魔鹿に近づいた一匹のゴブリンが、後ろ脚で蹴り飛ばされた。


 ゴブリンの場合、指揮をとれる個体がいるかいないかで戦闘能力に差がでるらしい。

 ゴブリンキングが存在した場合、その比は歴然だ。


 ここにはただのゴブリンしかいないみたいだが、たまには魔鹿に棍棒が命中することもあった。

 とは言え魔鹿が優勢なのは変わらない。何匹も仲間を蹴られているうちに、ゴブリンも安易に魔鹿へと近づかなくなった。


 遠巻きにゴブリンが様子をみだして膠着状態が続いたころ、ゴブリンにとっては最悪な事態が起きる。


 そこに魔鹿の親鹿が現れたのだ。

 それに気がついたゴブリンたちが子鹿から一斉に離れる。


 ゴブリンが怖じ気づいたのを尻目に、親鹿は子鹿のところまでやって来た。前脚で地面を何度も蹴っていて鼻息がとても荒い。


「そりゃ親なら怒るだろうな」


 十匹以上のゴブリンと争っていた子鹿は傷だらけだった。この姿を見たら親なら許せないだろう。

 それにこの前の魔鹿もそうだったが、魔鹿は鹿のくせに好戦的だしな。


 子どもを傷つけられて荒ぶる親鹿はゴブリンを蹴り、踏みつけ、噛みついた。親鹿による蹂躙があっという間に終了した時には、その場に立っているゴブリンは一匹も存在していなかった。


 私にとってはチャンス到来だ。待ちに待った魔鹿との遭遇。今日はウォーハンマーを持ってきてはいないので攻撃方法をこれから考えなければいけないのだが、それでも逃す手はない。


 ゴブリンとの一方的な戦いが終わった魔鹿の親鹿は子鹿に顔をすり寄せ、子鹿の顔を舐めていた。

 そしてすぐに山の中へと移動を開始する。


 これだけのゴブリンが倒れていれば、それを餌にしているモノたちが寄ってくる恐れもある。私は小鹿の背の上で、この親子をどうするか頭を悩ませていた。


 親子愛を見せられたあと捕獲するのはどうだろう……。


 しかし、今までも私はいろんな魔物を狩ってきた。それは十也とこの世界で暮らすために、そして元の世界に帰るという目的があったからだ。


 この世界は弱肉強食で魔鹿は私にとっては最大級の獲物。これを逃したら次はいつ遭遇できるかわからない。


 しかもこの親鹿、大きさは前の魔鹿よりかなり小さいが、皮が青いレアカラーなので高報酬魔物。

 ――だから私は気持ちをリセットしてこの親子を獲物とすることに決めた。




 噛みつくのはダメだ。


 腕力が強い生き物になって木の棒を使い殴り倒すのはどうだろうか。小鹿はいけそうだが親鹿の体格からいってそれも無謀な気がする。


 草食動物だったら多少は霊力も抑えられないだろうか。そして結論を出した私は小鹿の背中から飛び降りた。


 今、私は親鹿と目線がほぼ一緒だった。なぜならヒクイドリに変幻しているからだ。

 まだ妖精体なので魔鹿には気づかれていない。


 考えた結果、ヒクイドリの爪で攻撃することにした。

 たとえ魔鹿に走られたとしてもヒクイドリの脚ならついていくことは可能だろうし、ヒクイドリの爪にどれだけ攻撃力があるかわからないが、それで切り裂いたとしても、刃物の傷跡として誤魔化せそうな気がする。


 少し開けた草原まで来たとき私はヒクイドリで実体化した。


 魔鹿の親子はさぞ驚いたことだろう。ヒクイドリの私に気がついてから、すぐに親鹿は自分の身体で小鹿のことを隠す。


 とりあえず全力で攻撃してみようかと思ったが、うまくはいかなかった。勢いをつけてキックしようと、私がもたもたしているうちに、魔鹿は戦わず逃げに徹する。

 子連れだからだろうか?


 そしてとうとう草原を全力で走り始めてしまった。

 あわてて私も魔鹿を追いかけて走る。


 もちろん走っている時は霊力温存のため妖精体だ。私の姿が見えなくなっても魔鹿の親子は走るのをやめなかった。


 どのくらい走り続けただろうか。

 最終的には横枝の多い樹木の間をすり抜けるようにして魔鹿に逃げきられられてしまった。




 ヒクイドリのまま、ひとりぽつんと立ち尽くす私。



 冷静になって気がついた時にはここがどこだか全くわからなくなっていた。


 もともとはゴブリンに会いに来たはずだった。それなのにゴブリンの巣の場所はわからなくなってしまっている。と言うよりも帰り道がわからない。


 私は無事十也の元へ帰ることが出来るのだろうか。


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