81 座敷わらし、ゴブリンを探しに行く
朝になりネコが部屋へと戻ってくると、ヒナは私の後ろへと隠れてしまった。
これは本能だから仕方ないと思う。ネコの方も間違って飛び掛かってしまうといけないので、自分の見えないところにいてもらった方がいいそうだ。
「本当に可愛いわね。何の鳥かしら。だけど静水館の中ではこの箱に入れておいてね」
朝食の際、ベルナさんにヒナが孵ったことを告げると部屋まで見に来たついでに、小さな木箱を渡された。
部屋を糞で汚したらいけないし、静水館はもともと動物は入館禁止になっているので、特例で認めてもらっただけでも有難いことだ。
エルシーも興味があったのかベルナさんと一緒に部屋に見にきた。大きな瞳をもっと大きくしてヒナを見つめていた。ふわふわはみんな好きなんだな。
ヒナを木箱に入れるとぴぴぴぴぃーっと怒っているそぶりをしたが、それもまた可愛いい。
食べ物は鶏用の餌が雑貨屋に売っているそうなのでそれを使用することにした。昆虫なんかも食べさせた方がいいかもしれない。
もう少し大きくなったら外に連れ出そう。孤児院の裏庭だったら広いし、刷り込み効果で私の跡を追ってくるから離しても大丈夫そうだしな。
ヒナが孵ったことで一時忘れかけていたが、私はあの善良なゴブリンたちが気になって仕方なかったことを思い出した。
今までどちらの世界でも動物から幸運が流れて来ることはなかったからだ。この世界には獣人がいて、たぶん人族ではなくても獣人からは幸運や不運は入ってくるような気がする。
ゴブリンも人型だからかもしれないが、デブリンとガリリン以外のゴブリンに会って確かめてみたい。
十也の休息日に他のゴブリンを見に行くことにしたので、担当眼鏡から、巣の中のゴブリンには決して手を出さない約束でゴブリンの巣の場所を教えてもらっておいた。
ネコは十也の側にいるため残っているから、今日は私ひとりだ。もちろんヒナも十也が面倒をみている。
ラトレルさんも今日は予定があって、残念なことに誘うことはできなかった。
私が町の外に出るため、東門の前を通りかかると門番が何やら揉めているところに遭遇。
「君はひとりでは町の外には行けないよ」
「どうしてボクだけダメなんですか」
「君はまだ十五歳になっていないし、冒険者でもなく、保護者がいなかったら危ないからね。これは規則だからどうしても通すことはできない」
ふたりの門番と言い争っていたのは十也くらいの年頃の男子だった。
「あ、君はこれから狩りに行くんでしょ。なんでこの子はいいんですか」
突然話しかけられる。
「この子はこの町の出身ではないし、センターから許可が出ているからだよ。詳しくは教えてあげられないけど職業カードにある十五桁の番号にはいろいろ情報が入っていて、君は許可されていないから出してあげられない。出たければ保護者になってくれる人を連れてきなさい」
「あの子だって子供なのに、納得できない」
「ダメなものはダメだ。町に帰りなさい」
押し問答しているようだけど私には関係ないから、さっさと冒険者カードをしまって通り過ぎようと思ったその時、その男子に服の裾を掴まれてしまった。
「じゃあ、この子に保護者になってもらう」
「「「はあ?」」」
ちょっと待て、そんなわけあるか。門番の二人も呆れている。
「これってどうなんだ」
「いや、普通にダメだろう」
「ちなみにそこの君、保護者になる気はあるかね。こっちの子の全責任をおうことになるが」
私は頭をブンブンと振りそれを拒否。そして服の裾を一瞬だけ妖精化してその男子の手から逃れると走ってその場を後にした。
後ろからずるいとかひどいとか叫び声が聞こえるけどそれには構わずテンゴウ山へと急ぐ。
ゴブリンの巣は、私だけで行けそうなところをひとつだけ担当眼鏡から教えてもらっていた。
最近よく通っているラトレルさんのマイノの狩場の近くに川が流れていて、その川に沿って上流へと進んでいくとゴブリンの巣があるらしい。
ゴブリンは洞窟に住み着くそうなので入り口もわかりずらいし、いま目指している巣は規模が小さいから見落としてしまうかもしれない。
十分気をつけながら行くつもりだ。
山に入ってからはずっと妖精体で進んでいたので、普段の倍の速度で移動していた。あっという間に川までたどり着き、私はゴブリンの巣を目指して上流へと進んで行った。――はずだった。
なのにどうしてこうなった?




