80 座敷わらしとふわふわ
ぴぴ、ぴぴぴっ。
明け方、部屋に朝日が差し込んで少し明るくなってきたころ、部屋の中で音がした。
最近、私は夜でも休眠状態になってはいない。
金銭的に余裕がでてきたし、ネコが情報収集に出かける必要があったからだ。
音がする方向へ視線を向けると真っ黒いつぶらな瞳と目があった。
白と灰色で丸くてふわふわな生き物がちょこんと座っていて私をじっと見つめていた。
「ヒナ?」
「ぴぴっ」
「お主、孵ったのか?」
「ぴぴぴっ」
部屋の隅に置いてあったタオルの上に、割れた卵の殻と並んでいるので、ゴブリンがくれた卵から産まれたのは間違いない。
私が考え事をして頭を悩ませているうちに、いつの間にか孵化していたようだ。
昨晩、たまたま私の能力で卵の中身がまだ生きていることがわかり、もしかしたら孵すことができるかもしれないと、とりあえず温めてみることになった。
やり方がわからないのでベルナさんに相談すると、真冬に使う魔道具のカイロを貸してもらえることになり、それをタオルで巻いた上に卵を乗せておいたのだ。
「何、どうかしたの」
私の声で十也も目を覚ましたのか、布団の中から話しかけてきた。
「ヒナが孵った」
「え?」
十也は布団を跳ね除け、卵の置いてあった備え付けの棚の方へベッドから落ちそうになりながらも身を乗り出した。
「うわー、ふわふわだ。かわいいー」
黒い瞳をパチパチしながら私たちの方を見ているそれは頭の天辺と顎の下が濃い灰色、羽は薄い灰色のまだらで、お腹の部分は真っ白の羽毛に覆われていて、小さな嘴は全体が黒く端っこだけが黄色い。
このヒナは、すでに羽毛もはえそろっているし、カルガモやウズラのように卵から孵ってすぐに自分で動きまわれる早成性の種類だったようだ。先ほどから私を見て鳴いているのは餌をねだっているのいるかもしれない。
十也が固くなりすぎて食べるか捨てるか迷っていた丸パンがしまってあることを思い出し、それを小さく砕いてヒナの前に置いてみる。
ヒナはぴっ、ぴっ、ぴっと左右に首を倒してかわいい仕草をしてからパンくずを食べ始めたので、十也と二人でヒナが食べ終わるまでそれをずっと見ていた。
「かわいいなあ。さわったらだめかな」
十也はさっきから、かわいい、かわいいと連呼しながらヒナに夢中だ。
「ヒナ、なでてももいいか」
「ぴ? ぴぴぴっ!」
私の言葉に丸いからだをもっと丸くして小さな翼をパタパタ羽ばたかせた。
その仕草が嬉しそうに見えるので了承されたのだと思う。私がヒナの前に手の平を出すとパタパタしながら自分から上に乗ってきた。
軽く指で頭をなでると気持ちよさそうに目を細める。
「ピーちゃん、僕の手の平にもおいでよ」
十也が話しかけるとヒナはまたぴっぴっと左右に首を倒しながら羽ばたくのをやめてしまった。
「僕はダメなの」
「ヒナどうしてだ」
私の呼びかけに、また羽をパタパタし始める。
「ヒナちゃんひどい」
すると今度は十也に向かってもパタパタした。
「「……?」」
「ヒナちゃん?」
と呼ぶと反応するヒナ。
「あー、またそのまんまの名前になっちゃったじゃん。この子絶対自分の名前がヒナだって思ってるよ」
「べつにいいだろ、ヒナで。何が不満だ」
「お楽って最初からそうだったけど名前に無頓着すぎるよ。僕も太郎になるところだったしさ」
わかりやすい名前が一番いいと思うのだが……。
逆に私には十也のこだわりがよくわからない。




