78 座敷わらしとゴブリン 2
「魔法を使うゴブリンだからEランク冒険者が出会ったら危ないな。討伐しておくか」
オークの場合は緊急事態だったから迷う暇もなかったが、人型の魔物に手を掛けることは私でも戸惑う。
やはりこのまま放って帰ろうかなと思っていた私はあることに気がついて驚愕した。
これまでもいろいろあったが自分自身で自分の能力を疑ったのは初めてのこと。
なぜなら――二匹のゴブリンから幸運が入ってきたからだ。
驚きすぎて確認せずにはいられなかった。
私はゴブリンが逃げ出さないギリギリの距離まで近づき、目を見開いて二匹のゴブリンを凝視する。
十也やネコが止めるのも構わずに全身を観察し続けた。
突然私が近づいたので一瞬手に持っている棒をこちらに向けたゴブリンたちだったが、結局魔法は使わずに私を見ながらゴブリン語で何かを話し合い始める。
少しするとガリガリのゴブリンがデブのゴブリンの肩を軽く押して前に出してきた。
デブのゴブリンがモジモジしながら上目遣いで私にギャッギャッと話し掛けてきたが、何を言っているかわからない。
そのしぐさがちょっと気持ちが悪かったので、私が渋い顔をしているとデブリンは首を傾げた。そして顎に手を当てて何か考えてから、今度は手に持っていた棒を振り黒い靄を出したので私は慌てて数歩後ろに下がりゴブリンから距離をとった。
ところがなぜかデブリンは、靄で魔鹿のミニチュアをつくり、自分の周りをグルグルと走り回せ、そして靄が煙のように消えたと同時にドヤ顔でこちらを見たのだ。
何を始めたのかまったく意味が分からなかったので眉をしかめると、デブリンはまた首を傾げる。
そしてまた何か思いついたらしく、笑顔になったかと思うと、今度はゴブリンが腰に下げていた袋から白くて丸い物を取り出し、私の方へと差し出してきた。
「――お楽にくれるみたいだけど」
おかしな行動をするゴブリンに気を取られているうちに、いつの間にか十也もそばまで来ていた。
「さっきから思ってましたけど、これって求愛行動なんじゃないですかねぇ」
「ぶはっ」
十也が噴き出す。
「童が熱い視線をゴブリンに送っていたからですよ、きっとぉ」
私が攻撃もせずに刮目したせいで、デブリンに勘違いされたというのか?
それにしたって人間は宿敵なはずだ。それともあいつらには私がゴブリンに見えているのだろうか。
禿げてないよな。思わず後頭部をさわって確認してしまった。
またしても私がゴブリンを無視しているとデブリンはやっと諦めたのか、――今度は私の隣にいた十也にその手を向けた。
「「「…………」」」
十也でもいいらしい。
人のことを笑っていた十也もこれでデブリンの想い人だ。あれだけ会いたがっていたんだから、デブリンに気に入られてよかったな。
呆気にとられた十也もそれを受け取らずに、うわーとか言いながらデブリンから距離をとり始めると、十也が嫌がっていることが分かったのか、デブリンはガクッと肩を落とした。
言葉はわからないが、ガリリンが慰めているようだ。
私はこの二匹のゴブリンが良い空気をまとっていることが分かった時点で、討伐する気持ちはなくなっていた。
意思疎通ができないのでゴブリンたちがなぜ『善良』なのかはわからないままなのだが……。
あまりにも悲壮感が漂っていたし、幸運が溜まってから、おっさんゴブリンたちに少し情がわいてしまったので、白くて丸い物だけは私が受け取ってやることにした。
そうするとさっきまでの悲しみが嘘のようにゴブリンたちが大喜びして小躍りを始める。
もう、こちらの動きなど気にしていなようだったので、その隙に十也とネコだけこっそりとその場を離れ、二人が充分距離をとったところで私は妖精化してゴブリンのもとから逃げ出した。
突然私が消えたためゴブリンたちがキョロキョロしていたところまでは見たが、そのまま走って来たからあの後どうなったかはわからない。
あいつら、他の冒険者に狩られてないといいけどな。




