75 座敷わらし、エルシーに話しかけられる
十也の調子も順調。
それでも無理はせずに近場で狩りをしているため、今日は結構早く静水館に戻ってきた。
入口のベンチに座って足をブラブラ揺らしているのはエルシーだ。遠目でも銀髪が目立つからわかる。
エルシーは私たちに気がつくと、さっと立ち上がりすぐそばまで走ってきた。
「エルシーちゃんお疲れ様。これから孤児院に帰るの?」
「そうなんですけど……えっと……」
自分から私たちに近づいてきたと言うのに、なぜか下を向いたまま口ごもるエルシー。
「もしかして、私たちを待っていたのか?」
「話を……聞いてもいいですか」
地面を見ていた視線が、今度はしっかりと私を捉えた。その瞳は真剣そのものだ。
「どうしよう。孤児院に帰るのが遅くなると心配されちゃうよね。歩きながらでもいいかな」
「それがいいだろうな」
私たちは孤児院にエルシーを送り届けることにして、道すがら話をすることにした。
「それで? 聞きたいことって何かな」
十也が優しくエルシーに声を掛ける。エルシーを挟んで横並びでいるので、エルシーは左側にいる十也の方を見た。
「トーヤさんたちは自分の意志で冒険者になったんですよね。家族と離れていて寂しくないですか」
「家族? あまりにもいろんなことがありすぎて忘れてた。考えてみたらすごくやばいかも。突然僕がいなくなったから心配してるんじゃないかな」
昔だったら神隠しで済んだが、今なら失踪か誘拐で捜査されているだろう。
今更気がついたが、十也は元の世界に戻った後も大変だ。何があったのか聞かれるだろうが
「異世界に行ってました」なんて本当のことを言ったら最後。病院を紹介されてしまう。
「トーヤさんて自分で家を出てきたんですか」
「自分からではないよ。ここに来ることになったのは事故だったんだ」
「十也は私が巻き込んだのだ」
エルシーが私の方を向く。その顔は申し訳なさそうな表情だった。
「変なことを聞いてごめんなさい」
「僕のことは気にしないでいいよ。絶対家には戻るつもりだからね」
「私も十也のことを一番に考えているからな」
それからエルシーが黙ってしまったので、十也が気を利かせて話を元に戻す。
「それで、家族と離れていて寂しいかって質問だっけ。うーん、僕はもともと両親とはあまり交流がない方だったから寂しいとは思っていないよ。今まで忘れていたくらいだからね」
「オラクさんもですか?」
「私にはもともと親という者がいなかったからな。ずっと一人だったし、こうやって十也たちと交流できている今を思えば、昔の方が寂しかったかもしれない」
その話を聞いたエルシーと十也がなんとも言えないような顔をした。十也は私が座敷わらしだって知っているのだから、今更そんな目でみられても困る。
「いや、私はそういう生き物だから、心配はいらないぞ」
エルシーは首を傾げながら、それでも一所懸命何かを考えているようだ。
「エルシーは寂しいのか? 孤児院には仲間がたくさんいるだろう?」
あの、うるさいキノコ頭たちを相手にしていたら、毎日騒々しいと思う。
エルシーの寂しいは、私の寂しいとは違うのだろうか?
「周りにはいっぱい人がいるけど……あたし、やっばりみんなと違うのかな。こんなに寂しいなんて変なのかな。お父さんが迎えに来るのを待っているだけなんだけど……」
「エルシーちゃんのお父さん?」
「冒険者をやっていて、そのまま帰ってこないけど、何か理由があるんだと思う。だからあたしは静水館でずっと待っているんです」
冒険者をしていて帰ってこなかった……エルシーは可哀そうだが、誰が聞いても思いつくことはたぶん一緒だと思う。




