72 十也の魔力量 2
まずは十也の幸運を一度空にして、フェルミから十也に魔力を送ってもらうことにした。
魔力の受け渡しをするために十也と手をつなごうとフェルミが手を出したが、十也はフェルミの指先に少しだけ触れただけだ。
顔は横を向いていてフェルミの方を見ていない。
照れている場合か!
「フェルミ、十也の手首をつかめ。その方が早い」
「これでいい?」
私の言った通りフェルミは十也の手首を両手でつかんだ。
フェルミがまったく気にしていないことで、逆に自分の態度が恥ずかしくなったのか、十也もやっと真面目に向き合う。
つながった手からフェルミが十也へ魔力を渡すイメージをし、十也が受け取った魔力を自分の心臓の位置へと流しそれから心臓を魔力で満たすイメージをする。
「本当に魔力が移動しているわね」
「エウは魔力が見えてるの?」
「フェルミの魔力だけはわかるわよ。わたくし、フェルミの魔法で現世に繋がっているんだもの。だけど自分と違う魔力は流れ出してしまうから身体に溜まることなんてないはずなのに」
そうやって三分ほどすると
「魔力が動かなくなったわ」
エウリュアレ様が言うので、今度は受け取った魔力で魔法を使ってみることにした。
前にラトレルさんに教えてもらった通り、十也はさっきとは逆に心臓から指へと魔力を流し、水を出すイメージする。
ジョボジョボジョボ……
「水だ。僕でも魔法が使えた! ――あれ?」
水は少しだけ出て止まってしまった。
「魔力が空になったわ」
エウリュアレ様がそう教えてくれた。
「あたしの送った量が少なかったの?」
「いいえ、その者の受け入れる容量が少なすぎるだけよ。あれ以上は魔力が入る余地がないもの」
エウリュアレ様が言うには、十也は魔力を溜めることはできるのだが、その量があまりにも少なすぎて一度の魔法であっという間に魔力切れになってしまうそうだ。
火魔法で試してみれば、手持ち花火のような火花が少しだけ散っておしまい。
風魔法ではうちわで二、三度あおった程度の風がでるだけ。
地魔法は地面がボコッと拳大のへこみが出来て終了してしまった。
この世界では人それぞれ魔力量は決まっていて使い続けても増えることはないという。
この程度の魔法であれば、十也は幸運がなければ病む可能性があるのだから、どちらを優先させるかとなれば幸運に決まっている。
「先ほど魔力は溜まるはずがないとおっしゃっておりましたが、十也は他の人間と何が違うかご存知ですか」
「さあ、ただ普通は他人に魔力を流しても無駄になるだけだわ。人間が治癒魔法と呼んでいる魔法は魔力を治療素に変換して使用するから患部が体表に近い部分の処置しかできないのだし。深部の治療は患部に治療素が届くまで魔法をかけ続けるしかなくて、大量に魔力が必要になるから効率がとても悪いわ。治癒魔法はフェルミほどの魔力の持ち主でも、気を付けなければ、すぐに魔力切れになってしまうわね」
魔法を受け渡すと言う行為はとても難しいものらしい。
「そこの小童が魔力を溜められるのはもともとの体質か、魔力ではなくてもそういうことを普段から受け入れていたせいかもしれないわ」
「お楽の幸運……」
ちょっとまて、治療師って命に係わらなければゲームみたいに簡単に治せると思っていたぞ。
「私の知っている治癒師は身体の中にも魔力を流しておりましたよ」
「それができるのだとしたら魔力を送り込むスピードが尋常ではないほど速いのではないかしら。身体に入った魔力が外へ押し出される前に深部の治療をしているのだと思うわ。――その者、会ってみたいわね」
確かに自分の真似はできないとか言っていた気がする。
それより、エウリュアレ様にいらない情報を与えてしまったかもしれん。
すまん、三白眼の治療師。




