71 十也の魔力量 1
わざわざこちらからフェルミに会いに行くことを提案した私に、トウヤはすごく驚いて理由を聞いて来た。
魔法が使える可能性があるのに、私がエウリュアレ様を避けていてそれを試さないのは愚かなことだ。
「魔力があって、何も聞かずに私たちに協力してくれそうな人間はフェルミしか知らない。試してみる価値は十分あると思う」
「そうだね。僕たちはこの世界の人たちとは根本的に違うみたいだから、この世界で普通じゃないことが出来る可能性はあるよね。思いついたことはやってみた方がいいと思う」
トウヤの体調も良くなり食欲も元に戻ったので、夜は食堂でみんなと同じメニューを食べている。
今日はミートソースをからめたニョッキと温野菜のサラダだ。
トウヤの分だけは野菜が小さめに切ってあった。トウヤの身体を考えて食べやすいようにしてくれたようだ。
最後に出されたお茶もトウヤだけ違うものが出てきた。
「お薬だと思って、ちゃんと飲んでね」
ベルナさんが人差し指を唇にあてて給仕に行ってしまってから、そのお茶に口をつけたトウヤが固まった。
薬って言っていたから苦かったのかもしれない。
少したってから何も言わずにゆっくり時間をかけて飲み干していた。
次の朝はのんびり過ごしてから、私たちは孤児院へと向かった。
昨日のうちにラトレルさんには孤児院に行くことを伝えてあったので、部屋から出たころには、ラトレルさんはすでに外出していて姿は見えない。
「この前はなんでだか嫌がっていたと思うけど大丈夫」と聞かれたので、――問題ないと答えておいた。
実際は、巨大な霊力を持つエウリュアレ様の前ではゾクゾクしてしまう。
ラトレルさんへの返事に間を開けてしまったせいで「やっぱり俺も一緒に行くよ」と言われてしまい、改めて本当に平気だからと断っておいた。
ラトレルさんだって私たちばかりに構っていては、予定も狂っていろいろ差し障りがあるだろうに。
「こっちから挨拶に行くつもりだったのにごめんなさい。エウに会いにきたの?」
今、私たちは孤児院の裏庭にいる。
ネコもついてきているし、他の人間に話を聞かれたくなかったからだ。
「いや、今日はフェルミに頼みたいことがあって来た。こっちは十也だ」
「こんにちは。僕は十也って言います。魔法のことでお願いがあってきました」
「フェルミです。よろしくね。オラクちゃん、なんかこの前と話し方が違うんだけど……」
「こっちが素だから気にしない方がいいよ」
「そうなんだ、私も今のほうが話しやすいかな」
「………」
挨拶を交わす私たちを、幼児がよく着ているエプロンドレスを着用したエウリュアレ様が、
フェルミの横で腕を組みながら見ていた。
「なんか可愛くなってるんだけど……」
三歳児ほどのエウリュアレ様の姿をみて十也がつぶやいた。
エウリュアレ様の姿は肩まであるふわふわの青い髪に水色のエプロンドレスだ。
「………」
エウリュアレ様は黙って私を見つめている。
「エウ、オラクちゃんたちの前ならしゃべっても大丈夫だよ。トーヤさんもエウのこと知ってるんだよね?」
フェルミはエウリュアレ様から、十也とは静水館ですでにあの姿で会っていることを聞いていたようだ。
「そなた、まずはわたくしに挨拶するのが筋でしょう。何無視してるのよ」
開口一番怒られた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。お会いできて恐悦至極に存じます。これは仲間の猫妖精です。どうぞお見知りおきください。」
「どうぞよろしくお願いします」
ネコがペコっと頭を下げた。
もう十分だって思うほど下げ続けた。
気持ちはわかる。
エウリュアレ様は、幼児のような話し方をしないので、普段は病気が元で喋れない設定にしているらしい。
人前では黙っていろとフェルミに言われているようだ。主従関係で言えば呼び出しているフェルミの方が主だからな。
フェルミが口をきく許可を出さなければよかったのに。
エウリュアレ様にたいして畏怖の念はいだいているけど、敬うために口調を変えて会話するのは正直めんどくさい。
「本日はフェルミに魔力を分けていただくために参りました。お願いできますでしょうか」
「そう。フェルミがよければわたくしは構わないわ」
エウリュアレ様から許可が出てよかった。止められたらフェルミにお願いすることは難しくなっただろう。こっそりフェルミにだけ近づくなんてできないだろうし。
「フェルミ、お主の魔力を十也に分けてもらいたいんだが」
「そんなことできるの? あたしやったことないんだけど」
フェルミは私とエウリュアレ様を交互にみて首を横に傾げた。
「私たちも何ができて、何ができないのかが知りたいんだ。とりあえず、いろいろ試させてくれ」




