64 座敷わらし、沼蟹の報酬に唖然とする
「トウヤさん大丈夫にゃんですか。にゃにがあったんです」
町に入る手前くらいにネコが迎えにきていた。
十也を心配しているネコに、荷車を押しながらこそっと今日あったことを教える。
センターに行く前に十也だけを治療院でおろし、ネコとも治療院の前で別れた。
ラトレルさんと私は大蛇と沼蟹を冒険者ギルドに納めるため向かったのだが――。
「沼蟹は四匹で大銀貨一枚と銀貨四枚だ。玉虫蛇はこれだけの大物は俺でさえ見たことがないからな。これから採れる蛇皮は色といいサイズといいかなり上級品だ。欲しがる革職人も多いと思うから値段をつけるのは少しだけ待ってもらえねぇか」
素材受取所の親父がそんなことをのたまわった。
「おいお主、沼蟹は大銀貨一枚だって掲示板にも載っているだろうが。どう考えても計算がおかしいぞ」
「はぁ、面倒くせえが教えてやるからちゃんと覚えておけよ。お前の持って来た沼蟹は脚がもげているんだよ。沼蟹は仲間で餌を取り合って争うからこういうのも多い。脚が八本とハサミが二本ちゃんとそろっていて大銀貨一枚だ。脚が少ない沼蟹は他の部分も傷んでることが多くてな。ほらここを見ろ」
親父が袋に水を入れ泥を洗いおとしてから私に見せる。透明な袋に入っている沼蟹は確かに脚が一本足りなかった。そして右側のハサミの付け根が白くなっていた。
「味も落ちるし、白い斑点がある場合は薬にはつかねぇ。今日持って来た沼蟹が全部こうなんだよ。わかったか」
説明されれば文句は言えなかった。
今更だが、たぶん私が袋詰めする前に逃げていった沼蟹たちは完璧な姿をした個体だったんだと思う。ちょっと問題がある沼蟹だけが逃げ遅れ残っていたとしか思えない。
うー、今日はもう静水館に戻って何も考えなくていいように休眠状態に入りたい。
「まぁ、沼蟹を四匹も持ってこられるほどの腕前なんだ。次頑張れや」
素材受け入れの親父に励まされてしまった。そんなに情けない顔をしていたのだろか。
玉虫蛇の報酬は値段がつかずに、今日は保留のままセンターを後にする。
荷車はセンターに返却すれば良かったので親父に玉虫蛇ごと渡しておいた。
十也の様子を見に行く前に、私はラトレルさんに今日の報酬分の大銀貨を一枚渡そうとしたのだが。
「今日オラクを一日見ていた俺がそれを貰えるわけないだろ。沼蟹の捕獲がどんなに大変だったか知ってるよ。それなのにオラクから沼蟹の報酬もらっちゃったら胸が痛くなるし、自分を軽蔑する」
報酬の話はいつもこうなる。ラトレルさんは本当に人が良すぎる。町の人間が心配するのもわかる気がする。
「では、玉虫蛇の報酬が決まったら、そっちは取分の三分の一は絶対に受け取ってくれ。私も冒険者として当たり前の契約が守れない自分は軽蔑する」
「わかったよ。玉虫蛇の分はちゃんと報酬としてもらうから。それならいいかい。だからそれはしまってくれ」
ラトレルさんと話がつき、治療院に向かった私は、そこで治療師が言った言葉に自分の耳を疑うことになった。




