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61 座敷わらしと沼蟹の戦い 3

「うぇー」


「どうした? そっち向いてもいいかい。さっきから音が気になって仕方ないんだけど」


「お楽が変なことしているんだよきっと」


 私には吐き気と言う生理現象はなかったのだが、あまりもの気持ち悪さに人間みたいな声が出てしまった。


「ああ、――もう帰りたい」


 思わず小さな声で弱音を吐いてしまう。


 ラトレルさんと十也が心配して元居た場所よりかなり右へずれたところに転がっている私の元へと駆け寄って来た。


「大丈夫か!?」

「何があったの。お楽が倒れるなんて」


 ラトレルさんは私と沼蟹を交互に見て驚いている。


「オラクゥゥゥー!!」

 え? 何ごと? ラトレルさんが突然叫ぶからびっくりした。


「オラク、今すぐ町に運ぶからな。俺がついていながらこんなことなるなんて。オラクが頑張り過ぎることはわかっていたのに。すごく痛いんだよな。本当にごめんな」


 ラトレルさんがひどく取り乱し、隣で十也がオロオロしていた。何が起きたのかわからないがさっさと起きて帰った方がよさそうだ。私は勢いよく上半身を起こした。


「「え?」」


「さあ、沼蟹を回収して帰るぞ」


「えええ? 痛くて動けないんじゃないのかい。毒棘にやられたんじゃ……」

「そうだよ。何かあったと思ってすごく心配してたのに」


「いや、全然。沼の匂いや諸々が気持ち悪かっただけだ」


「本当に、本当によかったぁ……」


 ラトレルさんがヘナヘナとその場に崩れ落ちた。いつも冷静なのに今日のラトレルさんは珍しいな。

 座り込んでいるラトレルさんを見て十也が何やら謝っているが放っておこう。


 ラトレルさんが放心状態のうちに冒険者ギルドで沼蟹用に借りてきた器具でハサミを固定し、ビニールに似た素材の袋に泥がついたまま一匹づつ袋詰めにしていった。


 全部で四匹。実はセンターからは十セットも梱包袋を借りて来ていた。


 そのくらいの数を予定していたから荷物持ちとして十也にもここまで来てもらったのに、たった四匹・・・・・・。


 さっきラトレルさんがすごく驚いていたので沼蜥蜴でもいたのかと思ったが違ったらしい。


 正気に戻ったラトレルさんが私の完璧な荷造りを見てまた驚いていた。


「何も手伝わなくてごめん。だけど沼蟹相手にどうやったらこんな短時間で袋詰めまで出来るんだ……」


「「あははは」」


 私は触っても大丈夫な身体だとは言えないので十也と一緒に笑って誤魔化しておいた。


「あれ、でも四匹だけか。さっき見た時はもっといたと思ったんだけどな」


 もしかして私が転がって現実逃避しているうちに沼蟹に逃げられたのかもしれない。うぅー、しくじってしまった。


 最後までちゃんと頑張れば良かった。


 沼蟹は袋詰めになっていれば安全なので私が二匹、ラトレルさんが二匹を背負い袋に詰めて運ぶ。


 もっと多ければ十也にも手伝ってもらうつもりだったが二人で十分運べるし、十也の体力が町まで持たないと困るので、二人がツルで作ったカゴだけを持たせておいた。


 まだ何か言いたげなラトレルさんを無視して私は帰る方向へ歩き始める。


 今日はこの世界にきて間違いなく一番つらい日だったので、効率と報酬が良くても二度と同じことはしない。


 この沼でリベンジするとしても絶対に他の方法を探そうと心に誓った。


 そして三人で帰り道を急いで歩いている最中にそれは突然起こってしまった。


「ぎゃぁぁぁぁー」


 山の中に十也の叫び声が鳴り響いた――。


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