56 座敷わらし、武器の加工を試みる
「さっき掲示板の前で腕を組んで仁王立ちしていたお楽を、他の冒険者たちがチラチラ見てたんだよね」
「そうなのか、考え事をしていて気づかなかったぞ」
「★4★5の前には、見るからにランクが高そうな冒険者が見に行くからさ、ひとり浮いてたんだよ。それを見て『誰か教えてやれよ』とか『受付が受理しないから大丈夫だろ』とか心配してた人がいたよ。なかにはあからさまに馬鹿にしている人もいたけど、やっぱり絡んではこないね」
「このままの方が面倒臭くなくていいな。別の町に行っても貴族だと思われた方がよさそうだ」
「そうだね」
トウヤと話しながら歩いているうちに髭もじゃの店に着いた。
カラカラーン
「おう、お前ら頑張ってるそうじゃねぇか。怪我もしてねぇみたいだし安心したぞ」
店に入ると今日は先客がいた。髭もじゃのいるカウンターに中年男性の冒険者がひとりと店の奥の方でロングソードを見ている十代後半くらいの男子が三人だ。
この店は十五畳ほどで小物はカウンターのうしろの棚に、大きな武器類は壁や棚に所狭しと並んでおり種類も充実している。
若い方は三人で話し合っているようなのでパーティの仲間なのだろう。
カウンターにいた中年冒険者は髭もじゃが私たちに声を掛けたのと同時に『それじゃあ、あとで取りに来るからよろしく』と言ってすれ違いに店を出ていった。
ラトレルさんに対する態度を見ていて思ったが、髭もじゃも人柄は良さそうなので贔屓にしている客も多いのだと思う。
「店主、今日はウォーハンマーのことで聞きたいことがあって来た、今いいか」
「すみませんロディウムさん。お楽、相談したいんでしょ、ちゃんとお願いしなよ」
私の言葉に髭もじゃと十也は苦笑いをしているが構わず用件を話すことにした。
「この柄をもっと太くしたいんだ。できれば太くした部分の真ん中は私の手にちょうどいいように凹みをつけたい。あと、紐を吊るす穴も欲しい。できるか」
「はあ? それにどんな意味があるかしらねぇが、特注になるから中古武器を買うのとは違って金が結構かかるぞ。大丈夫なのか」
「金があればできるんだな」
「鍛冶屋と相談しながらになるが、それくらいだったらどこの工房でも加工は問題ないぞ」
さっきから奥にいる若者冒険者がチラチラこちらを見ているので少し恩を売っておこう。
「さすが店主は頼りになるな。相談して正解だったぞ。金がたまったらまた来るからな」
「おう? なんだ突然、お前熱でもあるのか。気持ち悪りいな」
せっかく商売の手助けをしてやったと言うのに。私は両手を広げ盛大に嘆息して店のドアを開けた。
「お楽―! 失礼な態度で本当にすみません。また来ます。あ、あと、僕もスリングショットを薦めてもらったおかげでとても助かってます。ありがとうございました」
「お、おう、だからって二人とも無理すんなよ。武器買うために命かけるなんて馬鹿らしいからな」
店を出る際、髭もじゃの忠告に私は手を挙げて答えておいた。
先日のカザルとの木の棒の投げ合いの最中、ゴリラの手で持ちやすい太さの棒があった。
それで今使用しているウォーハンマーはゴリラが持つには柄が細すぎることに気がついたのだ。
だからと言ってすべて太くしては人間の状態だと持ちにくくなる。そのため髭もじゃに加工ができるか聞いてみた。
この世界での生活がギリギリの状態から脱せたおかげで、自分にあった武器や装備を考える余裕も出てきた。
そう言っても私の武器よりもトウヤの装備の方が大事だけどな。
これからもっとこの世界に適応していくために明日は沼で頑張るつもりだ。




