47 座敷わらしと孤児院の妖精 1
ある夜の食堂で、食事も終わり部屋へ戻ろうと思っていた私と十也は、ベルナさんとラトレルさんが話している内容に思わず足を止めてしまった。
「不思議ね。子どもたちが嘘をついているわけじゃないのよねぇ。エルシーちゃんも見たって言ってたし。孤児院に知らない子どもがいれば院長だって気がつくわよね。迷信だと思っていたけどやっぱり妖精なのかしら」
「俺もクリプトンさんに頼まれて孤児院で見張っているんだけど、その子どもには会えないんだよ。別に危害を加えるわけじゃないらしいけど孤児院の子どもの中には怖がっている子もいるからどうにかしてあげたいんだよな」
「妖精ってなんだ。ラトレルさんが孤児院に行っているのはエルシーとは関係なかったのか」
「エルシー? ああ、この前のことか。エルシーがセンターに用事があってさ、それについていっただけだよ。孤児院に通っているのは、不思議なことがあってね。院長に頼まれてそれを探っているんだけど」
「それが妖精かもって話をしていたところなの」
「座敷わらしがいるの?」
「え、何らし? トーヤ君、心当たりあるの?」
ベルナさんに座敷わらしと言う単語は通じなかったようだが、子どもにしか見えない妖精がいるのかもしれない。この世界にも私の仲間がいるのだろうか。
「存在が曖昧な何かがいるなら本当に妖精かもしれないですよ。僕も孤児院へついて行ってもいいですか?」
「トーヤなら構わないけど、何か知ってるのかい」
「妖精のことは少しだけ。孤児院にいるのが知っている妖精と同じかわからないけど。会えばわかるよね、お楽」
「やめておけ、十也が行って役に立つとは思えん」
「えー僕はそうだけど、妖精ならお楽には分かるよね。ラトレルさんの手伝いをしたいんだよ」
「オラク君は妖精を見たことがあるの? やっぱり子供なの? お掃除もしてくれるって本当?」
ベルナさんは興味があるみたいだが、最後のセリフが引っかかる。外国の屋敷妖精は知らないが座敷わらしは掃除はしないぞ。
しかも宿屋の掃除なんて部屋数いくつあるんだか。
「たくさんの伝承はあるが、屋敷に巣くう妖精は子どもの姿が多いらしい。私は家事を手伝う妖精は聞いたことがないな」
「そうなの。さすが博識だわね。そんな話、平民じゃ知らな「ごほん、ベルナちゃん!」
「あ、あ、えっと、とても残念だわー。屋敷妖精にうちでお手伝いして欲しかったのに」
あくまでも伝聞だというように話したつもりだ。ネコから聞いたように私たちを貴族だと思っているからか、ちょっとした知識を披露しても問題はないらしい。
「とりあえず一度行ってみようよ。お楽が行かないなら“他の子”に頼むからね」
私がダメでも十也はネコを連れていくらしい。万が一ネコが吸収されたらどうするつもりだ。
十也は私やネコしか知らないせいで妖精の怖さを全くわかっていない。得体の知れないものには極力近づかない方が安全なのだ。
私やネコが現代でも存在できているのは危ない妖精や妖を避けてきたのもあるからだ。妖精、妖怪の全盛期の時代に生きていた私とネコは身をもって知っている。
どうしてもと十也が言うし、ネコだけ連れていかれても困る。
ラトレルさんの話では危険はなさそうなので、あまり気乗りはしないが明日はラトレルさんと孤児院へ行くことになった。
部屋に帰ってからネコがその情報を掴んでいないか確認したが、町の北側はまだ探索できていないらしく、妖精の存在さえも気がついていなかったので、安全が確認できるまで、気をつけるように言っておいた。




