45 座敷わらし、新たなトラウマ
「全然いませんねぇ」
「人間の冒険者は何年も時間をかけながら山の把握をしていくとラトレルさんが言っていたな。高ランクの冒険者はどこに何が生息してるか知っているから問題なく狩猟ができるんだろう」
「我たちが無策すぎるんですかねぇ」
「だからと言ってラトレルさん以外、狩場情報を教えてくれる冒険者もいないだろうしな——正午まではまだ時間がある。もう少し行ってから折り返すぞ」
はじまりの荒野もそうだったが、山の中にいるとずっと同じ風景が続いてどちらに向かえばいいのかわからなくなる。
空間認知能力が優れていない私のような者は、同じ場所に何度も足を運んで身体で覚えるしかなさそうだ。
それもこの広い山の、ある一部に限定してということになるだろう。
「時間がかかりぎる。無理だな」
「諦めるの早すぎますよぅ」
「適当にやる方が私には合っている。運に任せるぞ」
「座敷わらしのくせにですかぁ?」
「座敷わらしだからだ」
私は自分に幸運を授けることはできない。だから十也に授ける。
私は十也が幸せになるために頑張っている。必然的に私も運がよくなければ十也は幸せになれない。
巡り巡って私も運がいいはずだ。
「前向きでいいとは思いますが、すごいこじつけで、我はびっくりですよぅ」
その後は黙々と歩き続けるだけだった。
どれほど山奥まで進もうが一向に魔物の気配はない。
太陽が真上に来たので仕方なく帰ることにした。来た道を戻ったので私たちの尾行をやめていなくなったと思っていた猿軍団とまたも遭遇をしてしまう。
そして再び木の棒の雨だ。さっき私たちに投げつけた木の棒を拾っておいたようだ。
「お前らいい加減にしろぉぉぉ」
さすがに腹が立ったので投げつけられた木の棒をこっちからも猿に向かって投げ返した。
木の上など人の力では届かないので上半身はゴリラだ。ところが木の棒の扱いに慣れているのか、風猿どもは私が投げた木の棒を巧みにャッチして、また投げてきた。
「はぁ? なんなんだよお前らはぁぁぁ」
事前の情報とは違い命中率がすごい。私は再び串刺しになった。
拾うのも面倒くさい。
その状態のまま、身体から引き抜いて投げ返すことにした。
「私に何か恨みでもあるのかぁぁぁ」
猿は猿で何度でも私に棒を投げつけてくるので、手元に投げるものがなくなることもない。
だからずっとやり合っている。
それは猿か私のどちらかが力尽きるまで永遠に続くかと思うほど。
目当ての魔物も見つからず手ぶらで帰らなければいけない八つ当たりもあったと思う。私は意地になってずっとやり返していた。
猿の方もいつまでも倒れない私に対してイライラしていたのかもしれない。
そんな時。
「キィィィ━━━━━━━ィ」
突然何かの叫び声が聞こえた。
意地の張り合いをしていた私と猿たちだったが、一斉に上空を見上げる。そのあとあれほど引かなかった猿が、即座に私への攻撃をやめて木から木へ飛び移りながら逃げだした。
「なんだあれは」
叫び声の主は、元の世界ではテレビでも見たことがないほど巨大な鳥。
姿が鷲に似ている。
その巨大な鷲の姿を目で追っていると、逃げ回る猿に向かって急降下してきた。
脚の鉤爪で猿を簡単に捕まえたかと思うと空中へ飛び立ち、ある程度の高度までいったらそこで猿を離す。
それを何回か繰り返し猿が全て逃げてしまうと、巨大な鷲も大きく旋回した後どこかへ飛んで行ってしまった。
その間、私も狙われる恐れがあったので妖精体でいたし、ネコは私と猿の争いの時点から木の陰に隠れていたので気づかれなかったようだ。
木に引っかかって一命を取り留めたカザルはそのまま逃げたが、地面には空から落ちてきて絶命している猿が五匹。
「なんだったんだ……」
「あの鳥、猿いらにゃいんですかね。貰っちゃっていいですよねぇ」
「そうだな……」
はあ、もう帰りたい。
風猿はニホンザルほどの大きさだ。一匹、十キロほどで体毛は濃い茶色。
持って来たロープで二匹づつ手首を縛り両肩にかけた。背中にもう一匹を背負うように私に縛り付け、ウォーハンマーを杖代わりにしてフラフラしながらもなんとか五匹全部を運ぶ。
荷車までの道のりは遥か遠く、猿もトラウマになったことは言うまでもない。
ついでに髪を縛っていた黄色い組紐もなくしたので、余計に気力を失った。




