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38 座敷わらし、必要なものを揃える

「冒険者のランクは魔物を倒せば倒すほど上がるんですか? 」


 移動中、十也が昨夜話していたランクアップの件をラトレルさんに質問した。


「ああ、確かにそう言われているね。冒険者がCランク止まりが多いのも、普通の山に生息している魔物をいくら倒しても経験値が足りなくてBランクに上がることが出来ないからだって聞くし。俺もテンゴウ山の麓にいるだけでは、Cランクのままなんだろう」


「数多く倒せば経験値は増えませんか?」

「どうだろう、高レベルの魔物を倒さないでBランクになったった冒険者って聞いたことないからな。このままで俺がBランクになれば証明されるんだけど」


「あと、そのランクとかって自分でわかったりしますか? 今の自分の能力がどのくらいだとか数値で見えたりしませんか?」

「よくわからないけど、カードの表記で自分のランクを知るってだけだと思うよ。魔法使いなら何か方法があるかもしれないけど、俺にはわからないな」


 そう言えば冒険者カードがなんか変わっていたような——。

 こっそり自分のカードを確認していると十也に見つかった。


「うそ、お楽Dランクになってる。——鹿か! 」

「マジカ【魔鹿】の討伐でだろうね。冒険者になってから数日でDランクか。すごいな。それより一人でマジカを倒した事の方がすごいのか」


「ラトレルさんもすでにCランクなのだから驚くことではないのではないか? ふだんは何を狩ってるんだ」

「うーん、俺はDランクまでは一人じゃなかったからね。マジカは一人じゃ絶対無理だな。普段はマイノ(魔猪)とかシックチョウ(疾駆鳥)が獲物だ。あと、オオマユ(大魔鼬)とかだね。西の方で大量発生しているオークも一、二体くらいならいいけど群れだとパーティじゃなきゃ危ないと思う」


 オークを二体も相手にできるのか? あの時、二体目のオークにはユタラプトルであったにもかかわらず攻撃をかわされ続けて私は結構苦労した。それだけラトレルさんが強いということかもしれない。


 ラトレルさんが獲物にしているシックチョウは七面鳥を大きくしたような魔物で、静水館の食事に出ることもあるらしい。クリスマスのターキーと一緒だな。食べるのがとても楽しみだ。


 ラトレルさんが言うように群れをなす魔物の場合一人では難しいのはわかる。私ですら相手からの攻撃が通らないとしても一体づつ倒していくとなれば、数によっていつかは霊力が切れてしまう。


 麻袋を購入したので十也が風呂敷がわりに使っていた雨具のポンチョが必要なくなった。ラトレルさんに見せたが、よくある物らしいので使っても問題なさそうだ。ただ、十也があの日を思い出すのか、着るのを嫌がるのでこれは売って新しいものを購入することになりそうだ。


 昼時になったので近くにあったパン屋でパンを購入して店の前にあるベンチで食べることにした。パン屋には丸いパンの他に、パンに具が挟んであるものが数種類あり私は茹で卵の輪切りが挟んであるパンを選んでみた。


 塩味だったがハムのような保存肉が不味かったのでこれにして正解だ。十也はレタスのような野菜と鶏肉が挟んであるパンを頼んでいたが「マヨネーズ”が欲しいよ」と言っていた。


 食べたことはないが元の世界にマヨラーなる者がいるほどマヨネーズが美味しいことは私も知っている。残念なことに両親が料理関係者でも十也には作り方がわからないそうだ。

 ラトレルさんはハム入りを食べていた。この世界の住人にとっては不味いわけでもないらしい。  


 あの酸味は保存肉を作る際に使っている調味料の一種みたいで、ほとんどのハムが似た味のようだ。


 蜂蜜を使った甘いパンもあったが値段が銀貨二枚もしたので金に余裕が出来るまで楽しみに取っておくことにした。この世界、甘味は高級品だ。



 パンを食べた後、薬屋に移動して外傷用の軟膏と食あたり用の丸薬を購入した。念のため筋肉痛や打ち身に効く湿布薬も手に入れておく。


 薬師は十也の母親ほどの女性で他の薬の説明も受けた。今のところ万能薬などは購入する余裕がないので、いずれ必要になったら買いにくるか。十也の食あたりの話をしたら、今度何かあったらまずここへ相談に来なさいと言われた。


 薬屋でどうにもならない病気や怪我だったら治療院に行けばいいらしいが怪我や病気と無縁の私には重軽傷の度合いがわからない。十也が動けないほどの病気だったらまた直接治療院に行こうと思う。



 その後、雑貨屋みたいなところで、携帯食として干し肉とナッツを少し購入した。十也が遠出する時はこの他に町で丸パンを買って持って行くことにする。


 ロープが狩猟には必需品だと言うのでそれも購入しておいた。


 予算の都合上、予定していたものをすべて揃えることは出来なかったが、これですべての店を回り終わった。



「あとできれば魔法印も用意しておいた方がいいと思う」

「昨夜も言っていたが魔法印とはなんだ」


「狩った獲物に自分の魔力の印をつけて所有権を得るための魔道具だよ。オラクは大物の魔物も狩れるから、ひとりでは運べないだろ。誰かに奪われたりしても印を押しておけば、それがオラクの獲物だって主張できるんだ」


「便利なものがあるんですね。だったら用意した方がいいよね」

「余裕ができたら持っておくべきだろうな」


 今日はまだ時間が早い。明日十也を連れて魔物を狩りに行きたいので、私たちはそれに備えて静水館にもどって休むことにした。


 ちなみに明日も今日購入した武器の様子も見たいからとラトレルさんは同行してくれるそうだ。ついでに自分も魔物狩りをするらしいが、私たちばかりに構っていられると髭もじゃに怒られそうなので是非ともそうして欲しい。


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